「ハイウェイ・トランスフォーマー」を名乗る、高速道路の作業車が登場しました。文字通り「形」を変えられ、最大全長23m以上になるという大型車両、その役割は「人の楯」になることです。開発の背景には路上作業員が抱える切実な課題がありました。

現場へ到着し「トランスフォーム」!

 NEXCO中日本が2020年8月26日(水)、高速道路の新しい維持作業車「大型移動式防護柵車両」を報道陣へ公開しました。

 この車両は、交通規制をともなう路上作業における作業員の安全性を確保するために開発された、いわば「防護柵に変身するクルマ」です。走行時は全長16mほどのトレーラーですが、作業現場に到着すると、その姿を変えていきます。

 まず車両後端の衝撃緩衝装置を展開させます。この部品はアメリカ製で、「2.5tのクルマが80km/hで突っ込んでも、運転者が重傷を負わない」という基準を満たしているものだそう。次に、トレーラー中央部の外壁にあたる保護ビームを、車両の左右どちらかに移動させることで作業スペースをつくります。さらにトラクターを少しずつ前進させて保護ビームを伸ばし、作業スペースを拡大。すべて展開した場合の全長は23.35mになりますが、この長さは高速道路で用いられる作業車としては最大級といえます。

 このように車体構造を変形(トランスフォーム)させることから、今回、この車両には「ハイウェイ・トランスフォーマー」という名称がつけられました。

 この車両は、NEXCO中日本グループの中日本ハイウェイ・メンテナンス名古屋(以下、メンテ名古屋)が、特殊車両のメーカーである東邦車輛と共同開発したオリジナル車両です。開発には約2年かかったものの、誕生の背景には高速道路の路上作業員が抱える切実な課題があったのです。

「工事規制エリアへ突っ込む事故」増えているワケ

 前出のとおり高速道路では、日常的な補修工事や事故後の処理などで、車線規制をともなう作業が発生します。その規制エリアは一般的にカラーコーンなどで仕切られますが、そこへ誤ってクルマが進入する事故が毎年起きており、しかも2016年度46件、2017年度103件、2018年度には149件と年を追うごとに増加している現状がありました。事故によっては、作業員が死亡するケースも発生していることから、路上作業員の安全確保が重要な課題になっていたそうです。

 じつはこの「移動式防護柵」、アメリカでは広く使われている方法とのこと。しかしアメリカの車両はサイズなどが日本の法令に適合しないことから、メンテ名古屋は「特殊車両の通行許可がなくても走れる」というオリジナル車両を開発しました。費用は1台およそ5500万円。2019年にプレスリリースでいったん開発を発表したものの、さらなる改良を加えたため、追加で1000万円以上かかってしまったのだとか。

 すでに「ハイウェイ・トランスフォーマー」は三重県内の高速道路で稼働しています。車両が現地に到着してから作業スペースを確保するまでの所要時間は10分ほどであり、作業終了後も約10分で撤収可能とのこと。効率としては従来よりも多少劣るものの、安全性は高まったといいます。メンテ名古屋は今後さらに車両を増備し、他所でも展開していく構えです。

 ちなみに、工事規制エリアへクルマが突っ込む事例が増えていることについて、NEXCO中日本は、明確な理由は不明としつつも、リニューアル工事などで工事規制の件数自体が増えているのも要因ではないかといいます。

 近年、高速道路では老朽化対策が急ピッチで進められていることからも、今後、路上作業員の安全確保はますます重要になっていくかもしれません。

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ビームなどを展開した「ハイウェイ・トランスフォーマー」。全長は23mを超える

乗り物ニュース 2020.08.26
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