※毎日新聞

 取材班一同、ビックリしているというのが正直なところだ。第20回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の公共奉仕部門大賞に、統合デジタル取材センター取材班による「『桜を見る会』追及報道と『汚れた桜「桜を見る会」疑惑に迫った49日』の出版」が選ばれたのだ。1面トップを飾るような特ダネは全くなかった。特ダネがないのに受賞、というケースはまれかもしれない。授賞理由は「ソーシャルメディアの活用や書籍刊行イベントの記事化など、常に市民社会を巻き込んで世論の『輿論(よろん)化』に努めた。継続的な報道の力を示した例として公共奉仕部門の大賞に値する」というものだった。受賞の意味を改めて考えた。【江畑佳明/統合デジタル取材センター】

■新聞は読者の知りたいことに向き合ってきたか

 2週間ほど前、親しい知人からこんなことを言われた。「新聞って『オワコン』でしょ」――。オワコンとは「終わったコンテンツ」のことだ。知人の発言の趣旨は「新聞なんて時代遅れのオールドメディア。あきられてしまってほとんど読まれてない」というものだった。そのときはカッとして「終わってなんかないよ」と言い返したが、その後も胸の中のモヤモヤが収まらない。だがしばらく時間を置き、冷静さを取り戻して思った。「さもありなん」と。

 新聞の生命線の一つは、言うまでもなくスクープだ。1面や社会面のトップを飾る大きな特ダネは「抜き」と言われる。よくあるのは、例えば政治部なら「衆院解散へ」、社会部なら「容疑者逮捕へ」といったものだ。とかく新聞は「○○へ」というニュースを好む。役所や警察が発表した内容を書くだけでは記者も読者も面白くない。当局が伏せている事実をどれだけ先駆けて報道できるかは重要だ。もちろん、当局だけでなく、世に知られていない事実を掘り起こしていち早く読者に伝えることも新聞記者の使命である。

 その一方で、新聞「紙」の発行部数は年々減少している。電車内で新聞を読んでいる乗客など、ほとんど見かけない。業界は坂道を転がり落ちている状況にある。

 この理由として、人々がニュースを得る手段が新聞からスマートフォンやパソコンに移行したからだ、とよく言われる。確かにその一面はあるだろう。だが、本当にそれだけだろうか。新聞は読者が本当に知りたいことに真摯(しんし)に向き合ってきただろうか。「これが今日のニュースだ」「これはすごいスクープである」と、伝える側の意識や価値判断が先行し、受け手である読者の興味関心をないがしろにしてはいないか。それが、私たち取材班の原点だった。

■「読者ファースト」を意識してスタートした取材班

 私たちの桜を見る会報道のきっかけは、2019年11月8日に開かれた参院予算委員会だった。田村智子議員(共産)が、桜を見る会に招待されるのは「各界において功績・功労があった人」(内閣府の答弁)なのに、安倍晋三首相(当時)の後援会関係者が多数出席していた事実を明らかにし、安倍氏を追及した。そして、ツイッター上にはこれを見た人々の「完全に政治の私物化ではないか」「そんなばかなことがあるの?」といった疑問や怒りの声が渦巻いた。

 その反応を見て「何か記事にできないか」と提案したのが当時の斉藤信宏・統合デジタル取材センター長だった。それを受けて、翌9日に毎日新聞ニュースサイトに最初に私が書いた記事が「『税金の私物化では』と批判あふれる『桜を見る会』 何が問題か 国会質疑で分かったこと」だった。田村議員の質問や安倍氏の答弁を読み直し、やり取りの詳細と識者の談話を盛り込んで、文字通り何が問題なのかを描いた。紙面だったらページの半分を埋めるくらいの2600字ほどの分量になった。

 この質疑自体は9日の朝刊でも報じられていたが、政治面の地味な扱いだった。しかし、私たちは「もっと詳しい記事を読みたいと感じている人たちがたくさんいるはずだ」とネット上の人々の反応から感じていた。そこで、すでに報じられている話に重ねる形で、より分かりやすく書くことにしたのだった。

 格好よく言えば「読者ファースト」である。私自身も長尺の特集記事を多く書いてきた経験から「読者が求めている記事がニュースであり、それを書くのが私たちの仕事だ」と考えていた。

以下ソース先で

2021年2月16日 18時34分(最終更新 2月16日 18時35分)
https://mainichi.jp/articles/20210216/k00/00m/040/156000c

■関連ソース
大賞に毎日、西日本新聞など 早稲田ジャーナリズム賞
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021600780&;g=soc