欧米では、ここに来て実用化される新型コロナ・ワクチンの種類が増えるにつれ、
それらに対する人々の選り好みが生まれるのではないかと心配されている。

米国では今月、FDA(食品医薬品局)から認可された3番目の新型コロナ・ワクチンとして、米ジョンソン&ジョンソン製品の接種が開始された。
それ以前から使われている米ファイザーと米モデルナ製のワクチンはいずれも(原則的に)全部で2回の接種が求められるのに対し、
ジョンソン&ジョンソン製の方は1回だけで済む。

このため集団免疫の達成を早めてくれるとの期待が膨らむ一方、このワクチンには医療関係者らから、ある種の懸念も寄せられている。

ファイザー、モデルナ製のワクチンは共に臨床試験で95%の発症予防効果が示されたのに対し、
ジョンソン&ジョンソン製は72%に止まったため、米国民がこのワクチンを敬遠して、
代わりに(より予防効果が高いと見られる)ファイザー、モデルナ製を希望するかもしれないというのだ。

また、ノースカロライナをはじめ一部の州では、州内の農園で数週間だけ働く外国からの季節労働者など
2回のワクチン接種を受け難い人たちに向けて、ジョンソン&ジョンソン製のワクチン接種を検討している。

しかし、そうした接種対象者の中にはホームレスや刑務所から出所間近の囚人らも含まれているため、
これが同ワクチンに対する偏ったイメージを形成してしまう恐れも囁かれている。

複数の新型コロナ・ワクチンに関する難しい選択は米国に限った話ではない。
ニューヨークタイムズによれば、ドイツでも、実際に国民の間でワクチンに対する選り好みの傾向が見られるという。

ドイツでは、これまでにEUの規制当局から認可されたファイザー製と英アストラゼネカ製のワクチンの接種が進められている。
臨床試験で確認されたアストラゼネカ製の発症予防効果は平均70%と、こちらもファイザー製に比べて低い。

加えてファイザー製のワクチンは、ドイツのバイオ・ベンチャー「ビオンテック」と共同開発したものであるため、
ドイツ国民は一種の身贔屓あるいはお国自慢と見られる理由からも、アストラゼネカ製を敬遠してファイザー製ワクチンを欲しがるようだ。

ドイツ国民の中には、アストラゼネカ製ワクチンの接種予約を拒否する人も少なくないという。

先月中旬までにドイツに輸入されたアストラゼネカ製ワクチンは145万回分に達するが、
そのうち実際に接種されたのは約27万回分に止まっている。このため同ワクチンの在庫が積み上がってしまい、関係者の困惑を招いている。

ここには独メディアの報道スタンスも影響しているようだ。つまり、ファイザー/ビオンテック製ワクチンに比べて、
予防効果の小さいをアストラゼネカ製品を言わば2流ワクチンとして報じるきらいがある。このせいでドイツ国民が後者を見下す傾向が助長されているのだという。

ただ、一口に臨床試験の結果と言っても、実際の試験環境やそれに関する諸条件はメーカー毎に異なる。
このためファイザー製とアストラゼネカ製ワクチンの予防効果を単純比較することは、本来なら出来ないはずだ。

主にこうした理由を挙げ、ドイツの政府や医療関係者は国民に対し、「接種を受けられるなら、どのワクチンでも接種を受けてください」
と促しているが、なかなか受け入れて貰えないようだ。

しかし、どんなワクチンにせよ国民がその好き嫌いを言えるのは、むしろ恵まれている国と見るべきだろう。

南米やアフリカ諸国をはじめ途上国では、ファイザーやモデルナ、あるいはアストラゼネカやジョンソン&ジョンソン製など
先進国で開発・製造されたワクチンを輸入して国民に接種するのは、現時点で極めて難しくなっている。

言うまでもなく、先進国の間でこれらワクチンの奪い合いが起きているからだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81041