もう飲めなくなるかも 気温上昇で生産困難に

 コーヒーは気候の変化に敏感な植物で、これが豆の生産量と質に大きく影響するという。2015年に行われた研究では、2〜3℃の気温上昇で、世界中のアラビカ種の生産を、山間部や森林保護区に移動せざるを得なくなるとされている。(ユーロ・ニュース)

 南米コロンビアはコーヒーの産地だが、現在栽培に適した地域でも、やがて高温と乾燥でコーヒーの木が生きられなくなる可能性があるという。より標高の高い場所に生産を移せばいいが、コーヒーに収入を依存する同国の55万人の小農が、適地を求めて移動し続けるのは経済的に無理だと研究者たちは指摘する。実際のところ世界のコーヒーの約80%はアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの小規模農家が栽培しており、彼らも移動費用に耐えることができない。(同)

古い文献がきっかけ 消えた品種が生き延びていた

 既存のコーヒー市場は、アラビカ種とロブスタ種で占められている。エチオピアやスーダンの高地が原産地であるアラビカ種は18〜22℃の気温を好む。ロブスタ種は30℃の気温に対応可能と考えられてきたが、最近では24℃以上では育たないとされている。世界には122のコーヒーの栽培種が存在しており、その多くがアラビカ種やロブスタ種より暖かい場所で育つ。しかしいずれも風味が悪く、小粒で収穫量が少ないと考えられていた。(エコノミスト誌)

 ところが最近、主要2種に勝るとも劣らない品種の存在が判明する。英王立植物園のアーロン・デイビス氏が、1834年に書かれた論文のなかに、アラビカ種よりも優れた風味を持つとされる「ステノフィラ」という品種の記述を見つけた。そして、ギニア、シエラレオネ、コートジボワールで、ステノフィラがいまでも野生種として生息していることを発見した。(同)

 CNNによれば、ステノフィラはアラビカ種よりも6.8℃も高い温度で育つという。シエラレオネの農業研究者、ダニエル・サルム氏によれば、1890年代に市場を席巻していたのはステノフィラのコーヒーだった。フランス人に好まれ、1920年代まで頻繁に取引されていたという。しかし、1950年代になってイギリス人によりロブスタ種が持ち込まれた。ロブスタ種は低品質とされていたが収穫量が多く、ステノフィラと同価格で売られていたため、農家の生産は次第にロブスタ種に移行した。時が経つにつれ、ステノフィラは忘れ去られていったという。

◆高い品質と耐暑性 温暖化の切り札に

 ステノフィラの品質だが、18人のプロのコーヒーテイスターの協力で行ったブラインドテイスティングで、アラビカ種とほぼ遜色ない味わいという高評価を得たという。今後の栽培に期待がかかるが、2つの可能性があるとされる。1つは直接栽培することだが、この方法では収穫量が問題になるかもしれない。もう一つは、既存の品種と交配させ、高温に耐える高収量の品種にすることだ。(エコノミスト誌)

 CNNは、ステノフィラは気候変動と戦うコーヒー産業にとっての救世主になり得るとする。また、ステノフィラ再生の最前線にいるシエラレオネにとっても希望の星だ。同国は世界で最も貧しい国のひとつで、そのコーヒー産業は11年間の内戦で壊滅的な打撃を受けた。人口の75%が従事する農業部門にとって、高価値市場が加わることは大きなメリットだ。資金が課題の一つだとサルム氏は述べるが、再び自国のコーヒー農園でステノフィラが見られるようにしたいとしている。
https://newsphere.jp/sustainability/20210605-1/2/