https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170418-00000006-mai-soci

「何をするにも楽しめない。誰を責めたらいいのか」。
神戸市の新名神高速道路の建設現場で橋桁が落下し、作業員10人が死傷した事故から
22日で1年。左腕を切断する重傷を負った中林潤也さん(20)=大阪市大正区=が、
毎日新聞の取材に応じた。事故以来、家から出ることはほとんどなくなったという若者は、
今も心身の傷に苦しむ。

「全く記憶がない。気が付いたら病院のベッドの上だった」。両親と共に取材に応じた
中林さんは目を伏せ、小さな声で言葉をつないだ。

事故が起きたのは、橋桁の東側で仮設の足場を解体する作業中だった。
橋桁が落下した衝撃で約10メートルの高さから転落。胸や首を骨折し、
建材に挟まれるなどして利き腕の左腕を切断した。

意識を取り戻したのは約2週間後。腕がないことに気付いた。2カ月後に退院したが、
現実を受け入れられなかった。大阪市内の建設会社で働き始めてわずか1年。
「多くの人の助けになる」。仕事にやりがいと希望を感じ始めた矢先だった。

平穏だった生活は、何もかも変わった。休日は友人とスポーツを楽しむことも多かったが、
腕のことが常に頭をよぎる。「周囲に気を使わせるから」とほとんど家で過ごすようになり、
「一日が長く感じる」という。

慣れない右手だけの生活は想像以上に難しい。義手をうまく操作できず、リハビリの気力も
なかなか湧かなかった。仕事に復帰するめども立たない。将来への不安を抱える中、
安全管理を担当する施工業者への怒りと後悔がこみ上げる。

実は事故の1〜2週間前、橋桁を東側でつっていた門型クレーンの支柱の土台が沈み、
地面にめり込んでいることに気付いていた。
「同僚と『怖いな』と話していた。本当に安全なのか調べてもらっていたら」

それでも何とか前を向こうとする中林さん。「今さら事故を振り返っても仕方ない。
同じような事故で苦しむ人が二度と出ないよう願うしかない」と絞り出すように言った。

◇再設置工事に着手

西日本高速道路は16日夜、橋桁の下を通る国道176号の一部を夜間通行止めにして、
新たな橋桁の設置工事を始めた。橋桁をつるす門型クレーンを支える土台の地盤調査や
基礎杭(くい)を追加し、安全性を向上。17日は悪天候のため工事を見合わせたが、
18、19両日の夜間から早朝にかけて橋桁を西側から東側に向けて送り出し、
5月以降に橋脚・橋台まで降ろす作業に取りかかる。

【ことば】神戸の新名神橋桁落下事故

2016年4月22日、神戸市北区の新名神高速道路の建設現場で、
国道176号上に東西に渡した鋼鉄製橋桁(長さ124メートル、重さ1350トン)が落下。
男性作業員2人が死亡し、8人が重軽傷を負った。

西日本高速道路が設けた技術検討委員会は同年6月、東側で橋桁をつっていた
門型クレーンの支柱が地盤沈下で傾き、橋桁が西側のジャッキからずり落ちたとの
調査結果を発表。地盤が軟弱だったのに事前調査が不十分だったと指摘した。

一方、兵庫県警は橋桁部材やジャッキなど数百点を押収し、業務上過失致死傷容疑で
捜査を続けている。専門機関による鑑定結果は今年5月以降に判明する見通しで、
現場責任者らが事故を予見できたかが焦点となる。