体外受精させた受精卵の染色体を調べ、異常がないものを選んで子宮に戻す「着床前スクリーニング」について、日本産科婦人科学会は不妊治療の過程で流産を減らすなどの効果があるか調べる本格的な臨床研究を、早ければ今年度中に始めると発表しました。「着床前スクリーニング」は現在、学会が禁止しているほか、命の選別につながるとして倫理的な問題も指摘されていますが、学会では結果を踏まえて、方針を転換して実施を認めるか慎重に判断したいとしています。

不妊治療で体外受精させた受精卵の中には、染色体の異常が起き、これが原因となって子宮に着床しなかったり、流産したりすることが知られていて、「着床前スクリーニング」は、受精卵の染色体を解析して異常がないものを選んで子宮に戻す技術です。

日本産科婦人科学会はこれまで、国内では有効性が確認されていないとして認めてきませんでしたが、海外で効果があるとする報告が示されるなどしたため、国内でも実施できるよう方針の転換を求める声が学会の中からも上がり、ことし2月から、学会が、有効性を確かめる臨床研究を行う準備を始めていました。
そして学会は9日、定例の会見の中で、「着床前スクリーニング」の本格的な臨床研究を、早ければ今年度中に開始すると発表しました。

臨床研究では流産が2回以上起きたり、体外受精が複数回成功しなかったりした女性を対象に行い、流産が減って出生率が上がるか調べ、国内での実施を認めるか、協議することにしています。

「着床前スクリーニング」をめぐっては、染色体の異常でおきるダウン症などの受精卵は子宮に戻されず、生まれないことになるなど、命の選別につながるとして倫理的な問題が指摘されています。

学会の倫理委員会の苛原稔委員長は「まずは有効性を調べるが、倫理的な課題もあり、実施を認めるかは慎重に協議したい」と話していました。

■着床前スクリーニング 国内では実施認めず

「着床前スクリーニング」は、不妊治療のために体外受精させた複数の受精卵から細胞の一部を取り出して染色体の数を調べ、異常のない受精卵を選んで子宮に戻す新しい技術です。欧米では不妊治療の一環として行われていますが、日本産科婦人科学会は、流産を減らすなどの効果が十分に示されていないなどとして国内での実施を認めてきませんでした。

しかし、一部のクリニックで学会の規定を無視して「着床前スクリーニング」を実施していたことが明らかになり社会的な問題にもなりました。

その一方で「着床前スクリーニング」によって流産が減り、出生率が上がったとする海外の研究成果が報告され始めたことから、学会でも実施を認めるよう方針の転換を求める声が上がり、3年前に効果を検証するための臨床研究を学会が実施することを決めました。そして、臨床研究を実施するための準備の試験をことし2月から行っていて、どれくらいの規模でどのような人を対象に行うか検討を進めています。

「着床前スクリーニング」をめぐっては、染色体の異常でおきるダウン症などの受精卵は子宮に戻されず、生まれないことになるなど、命の選別につながるとして倫理的な問題があるとして反対する声があるほか、流産などを防ぐための染色体の異常を見つける過程で受精卵の性別がわかってしまうために、男女の産み分けに使われることを懸念する指摘もあります。

■不妊治療中の女性は

不妊治療を続けている一部の患者からは「着床前スクリーニング」の実施を認めてほしいという声が上がっています。

不妊治療をしている39歳の女性は4年前に結婚し、子どものいる家庭を思い描いていましたが、なかなか子どもができず、体外受精を行いましたが、これまで2度の流産を経験しました。流産した後、胎児の染色体を検査したところ、染色体の数に異常があり、医師からは「この異常が流産の原因ではないか」と告げられたといいます。

女性は「2回とか3回流産する人ってそんなに多くはいないのに、なんでまた私なんだろうという気持ちでした」と話していました。

女性は「着床前スクリーニング」で、正常な受精卵を選んで子宮に移植することで、これまでのような流産を防ぎ子どもをもつことができるのではないかと考えています。

そして「子どもができたらいいねの1点で結婚してからずっと思い続けているの で、精神的にも着床前スクリーニングは実施してほしいと思います」と話していました。

配信12月9日 18時51分
NHK NEWS WEB
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171209/k10011252861000.html