https://www.nikkei.com/content/pic/20180303/96958A9F889DE0E5E4E5E0EBE2E2E2E1E2E1E0E2E3EA9793E7E2E2E2-DSXMZO2767283003032018EA5001-PN1-2.jpg

米雇用統計の発表をきっかけにした米国株の急落から1カ月が経過し、世界的な株安の連鎖がつづいている。世界主要25市場のうち過去1カ月で23市場が下落し、円高進行が重荷となる日本株の下落率が最大だった。米国の景気過熱による金利上昇に加え、米トランプ政権の保護主義が世界景気に悪影響を与えるとの懸念が加わり、市場の混乱が収まらない。

 世界株安の引き金を引いたのは2月2日発表の1月の米雇用統計だ。高い賃金上昇率を受けて利上げ加速への警戒が強まり、米長期金利が2.8%を上回った。ダウ工業株30種平均はこの日665ドル安と急落し、2月5日には1175ドル安と歴代最大の下げを記録した。市場は好景気と低金利が共存する「適温相場」の終わりを認識した。

 米長期金利の上昇はその後も続き、株安は世界に波及した。世界の主要25市場の2月1日終値と比べた騰落率を見ると、ベトナムとブラジルを除く23市場が下落。このうち13カ国・地域の株価指数は5%超下落した。

 2月下旬にいったん市場は安定を取り戻したが、先週半ばから株安が再燃した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル新議長が2月27日の米下院の議会証言で「(金融市場は)いくらか反転したが現時点で景気見通しに大きな影響はない」と発言。イエレン前議長に比べると利上げを急ぐタカ派的な姿勢が強いと捉えられ、ダウ平均は同日300ドル近く下げた。

 さらに市場を揺さぶったのがトランプ大統領の保護主義的な通商政策だ。1日に安全保障上の理由から鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をかける方針を表明した。

 足元までの世界景気の同時成長をもたらした大きな原動力は貿易の増加だ。オランダ経済政策分析局によると、世界貿易量の2017年の伸び率は4.5%と16年の3.0%から上昇していた。

 トランプ氏の輸入制限は中国や欧州との間の貿易摩擦につながりかねず「市場を支えてきた世界同時の好景気という土台が揺らぎかねない」(大和証券の壁谷洋和氏)との懸念が浮上している。

 トランプ氏の保護主義的な政策を映し、年初から進むドル安傾向も続いている。米金利が上昇しても新興国の通貨安と株安は限定的だ。ところが投資家のリスク回避姿勢が強まって安全資産とされる円が買われ、円高が進行。「円高で日本企業の増益ペースが鈍化するとの警戒感から海外勢が売りを膨らませている」(アセットマネジメントOneの鴨下健氏)。日経平均の2月1日比の下落率は9.8%と主要市場で最大だった。

 市場混乱が2月下旬にいったん収まったのは、堅調な世界景気がよりどころだった。だが貿易摩擦という新たな悪材料が加わり、投資家は再び警戒を強めている。米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる3月下旬までは「貿易摩擦や企業業績に不透明感が残り、相場は安定しづらい」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)との声が増えている。(坂部能生)

2018/3/3 20:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27672900T00C18A3EA5000/