加害者家族の支援を10年間続けているNPO法人ワールド・オープン・ハートの阿部恭子さん
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事件・事故後の加害者家族の生活の変化
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 罪を犯した人の家族を支援するNPO法人「ワールド・オープン・ハート」(仙台市)が8月7〜9日、九州では初めてとなる相談会を福岡、熊本の両市で開く。加害者の家族は誹謗(ひぼう)中傷にさらされ、自殺を考える人も少なくないという。理事長の阿部恭子さん(40)は「一人で悩まず相談してほしい」と呼び掛けている。

 「息子が人を殺しました」。阿部さんのもとに、九州に住む60代女性から電話がかかってきた。息子は交際相手の女性を殺害したとして逮捕され、妹である娘の結婚は破談になった。娘の交際相手の両親は、家に来てこう告げたという。「心配しているのは、娘さんからの復讐(ふくしゅう)です。お兄さんがあんな事件を起こしているんだから…」

 「殺人犯の家族は、みな人を傷つけるというのでしょうか。悔しくてたまりません」。女性は誰にも言えない胸の内を、こう吐き出したという。

 「娘が死亡事故を起こした」「夫が電車で痴漢して逮捕された」−。ある日突然、家族が犯した罪で加害者家族となり、生活は一変する。嫌がらせの電話やネットでの中傷、学校でのいじめ…。複数回の転居や退職を強いられる人も少なくない。「自分がこうしていたら」と罪悪感にさいなまれ、隠れるように暮らす。

 阿部さんは「世間の非難や憎悪の矢面に立たされるのは、塀の中に隔離される当人ではなく、家族なんです。相談者の9割が『自殺を考える』と答えるほど現実は過酷」と語る。

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 ワールド・オープン・ハートは2008年に設立。当時東北大の大学院生だった阿部さんが、欧米では一般的な加害者家族のための相談機関が国内に無いことを知って立ち上げた。メンバーには弁護士や臨床心理士などの専門家も加わり、24時間態勢で電話相談に応じる。家族同士の集いも定期的に開いている。

 4月までに全国から1029件の相談が寄せられ、九州は123件。地域別では関東に次いで多い。都会に比べて地方は匿名性が低いため、加害者家族が受ける差別や非難は厳しく、長期化する傾向があるという。「冠婚葬祭や祭りに参加させてもらえない」「回覧板が回ってこない」など「村八分」にされているという相談も多い。

 支援は、刑事手続きや裁判などの説明や被害者対応への助言▽拘置所での接見や裁判への付き添い▽転居を余儀なくされた人への物件の紹介−など多岐にわたる。しかし、支援団体は連携する大阪市のNPO法人スキマサポートセンターと全国で二つしかない。九州の相談者に対しては、実際に出向いて支援することは難しかった。

 そこで九州にも支援の受け皿をつくろうと、弁護士や研究者などへ協力を呼び掛け始めた。取り組みについて多くの人に知ってもらうため、今冬にはシンポジウムも開く計画だ。

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 加害者側の支援をしていることに対し「被害者家族の苦しみを考えないのか」と正面から非難されることもある。阿部さんは「被害者の支援はまだまだ不十分で、そちらが大事なことは言うまでもない。でも、社会から孤立し、誰にも相談できず悩む加害者家族がいることも知ってほしい」と力を込める。

 熊本大法学部の岡田行雄教授(刑法学)は、「罪を犯していない家族に制裁が加えられ、普通に生活できなくなる社会はおかしい」と指摘。家族が精神的、経済的に困窮すれば、加害者は更生の大きな支え手を失うとして「再犯防止の観点からも加害者家族の支援は非常に重要だ」と話す。

 インターネットの普及によって、加害者家族を取り巻く現状は厳しくなる一方だ。ネット上に出た情報を消すことは難しく、事件の影響は世代を超えて及ぶこともある。阿部さんは「これまで支援してきたのは、ごく普通の家族。身内が犯罪者になることは、人ごとではないと気づいてほしい」と話している。

西日本新聞 2018年07月24日 11時43分
https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/435349/