シェア畑川崎多摩では、野菜作りをもっと究めたい人向けの「アグリアカデミア」を開講している=6月15日、川崎市多摩区、織井優佳撮影
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シェア畑戸塚舞岡の「収穫祭」。アドバイザーと利用者が一緒にカレーを作って親睦を深めた=6月23日、横浜市戸塚区、織井優佳撮影
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住宅地の近くにあるシェア畑川崎多摩。5500平方メートルの広さに、210区画の畑がある=6月12日、川崎市多摩区、織井優佳撮影
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 横浜市営地下鉄の舞岡駅から歩いて20分ほど。裏山からウグイスやホトトギスのさえずりが聞こえる住宅街のそばに、野菜畑が広がる。ここは「都市と農業をつなぐ」をコンセプトに新たな農業ビジネスを手がけるベンチャー企業、アグリメディア(東京)が運営する「シェア畑戸塚舞岡」(横浜市戸塚区)だ。

 同社の「シェア畑」は、都市近郊の遊休農地などを市民農園として貸し出す、畑のレンタルサービス。農具や肥料、苗などがすべて用意され、手ぶらで通える。野菜作りに習熟したアドバイザーもいて、初心者でもちゃんと収穫できる。

 同社は、住友不動産出身の諸藤貴志社長(39)が、九州の農家だった高校の同級生と2011年に創業した。12年に埼玉県川越市で最初のシェア畑を開き、今では首都圏や関西の6都府県の約80カ所に増えた。総面積は18万平方メートル。1区画が3平方メートルからと小さく、利用者は2万人に迫る。

 起業前に郊外の畑で農作業中の人に話を聞くと、多くが農地は借りものだと言った。一方で、土地を持つ農家は高齢化や人手不足で土地が荒れていくことに悩んでいた。「両者をつなぐ仕組みをビジネスに」と考えついたのがシェア畑だ。

 食の安全への意識が高まるなか、都市生活者の農業への関心も高まっていると感じていた。「難しい」「忙しい」といったハードルをのぞけば、自分の手で野菜を作りたい人は多いはずだという確信があった。

 シェア畑戸塚舞岡の利用料は、約6平方メートルのレンタルで月額8149円(税別)。約100区画がすべて埋まり、キャンセル待ちが10人以上いる人気だ。

 川崎市多摩区の「シェア畑川崎多摩」などでアドバイザーをしている松下公勇(きみお)さん(65)は、生命保険会社に定年まで勤めた後、「ゴルフより楽しい」と野菜作りにはまった。利用者の同好会もある。「土いじりを通じて生まれたつながりも楽しみの一つ。技術より、この楽しさを伝えることに心を配っています」

 諸藤さんは、所有する農地を貸してもらおうと飛び込みで300軒の農家を訪ねたが、どこも最初は懐疑的だった。でも、草ぼうぼうの土地が畑に戻り、収穫を喜ぶ人の声が響くとみんな喜んでくれた。

 「畑のイベントに出てきて手料理を振る舞う人もいた。代々受け継いだ農地を自分の代で絶やしたくないと思っていたんですね」

 貸農園の開設には地元自治体と協定を結び、農業委員会の許諾を得る必要がある。手続きは煩雑だが、住友不動産で都心の再開発を手がけて得た都市計画や税制の知識が役に立った。

 アグリメディアは、4年後を見据えている。農業を続けることを条件に、固定資産税の負担を軽くしたり、相続税の支払い猶予を受けられたりする「生産緑地」に指定する制度が始まって30年後の22年に、都市部の農地が大量に宅地化する可能性があるからだ。

 生産緑地は全国に約1万3千ヘクタールあり、東京、大阪、名古屋の3大都市圏に集中する。その8割が指定期限を迎える22年に、所有者の多くが高齢化や税金対策などを理由に一斉に農地を売りに出す可能性があり、シェア畑にはこれを食い止める狙いもある。「長く大切に使われてきた農地をそのまま農業に使えるようにしたい。朝どれ野菜を食べられる豊かな生活は、都市の魅力の一つになるんですから」と諸藤さんは話す。

(続きはソース)

朝日新聞 2018年8月8日17時08分
https://www.asahi.com/articles/ASL7V5QCDL7VULOB01C.html