遮断機が長い時間上がらず、通行者やドライバーをイライラさせる“開かずの踏切”。近年は減少傾向にあるが、都市圏を中心に依然として住民を悩ませている。その一つとして特に通行者のマナーが問題視されている、川崎市中原区のJR南武線・平間駅前踏切を取材した。

ある平日の朝、そこには目を疑うような光景が広がっていた。通勤・通学ラッシュの午前8時すぎ、川崎方面行き上り電車が減速しながら、多くの人や車が待つ踏切を通過して駅に入った直後。逆方向の矢印が点灯し警報が鳴り続く中で、遮断機を押し上げて渡る人、人、人。赤信号ならぬ「遮断機もみんなでくぐれば怖くない」といわんばかりに、サラリーマンや学生風の若者、高齢者らが慣れた様子で、次々に悪びれる様子もなく通過していく。

1時間ほど見ていたが遮断機をくぐる人の波は絶えない。自転車に乗ったまま強行突破したり、後ろの人のために遮断機を上げてあげる親切?な人も。駅近くの保育園に預けるのか、だっこひもで幼児を抱えた男性も渡っていた。車は遮断機が上がるのを待って長い列。近隣住民によると、遮断機が下がるギリギリまで突っ込んで渡ろうとするため、下りてきた遮断機が車体に当たり折れることも多いという。

平間駅は上下2本の複線の地上駅で、改札口は東側の上りホームのみ。混雑がピークの午前8時からの1時間で、上下合計43本の各駅停車が運行する。記者が訪れた日、駅の北側にある踏切の遮断機が下りたのは15回。遮断機が1回下りるごとに電車が3本通過する計算で、最長遮断時間は8時24分からの14分間。この時は電車が13本連続で通過した。武蔵小杉方面へ向かう下り線は駅での乗降が終わってから、電車がゆっくり踏切を通過する。にもかかわらず、警報は電車が駅に到着するかなり前から鳴り始め、電車が踏切に達するまでには、踏切を通過してから駅に着く上り線のほぼ倍にあたる約95秒も要する。人々はこの“ロスタイム”を狙って遮断機をくぐる。駅の反対側に歩道橋があるが、迂回(うかい)してまで利用する人は多くない。

この踏切は、2016年4月施行の改正踏切道改良促進法で「改良すべき踏切道」として、国交省から最初に指定された全国58カ所(現在824カ所)の一つ。ピーク時の遮断時間が1時間中40分以上の「開かずの踏切」、さらに自動車・歩行者とも多数の滞留が発生する「ボトルネック踏切」に分類される。ここを通る県道大田神奈川線は両側通行の車道、両側に段差のない狭い歩道がある。路線バスを含め交通量が多く、前後にカーブがあり見通しが悪い。

南武線のこの区間は、将来的な高架化が決まっている。しかし地元で育った、共産党の市議予定候補の市古次郎氏は「いつ重大事故が起きてもおかしくない」として問題提起。県議らとともに市民453人の署名を集め、下り線運行時の遮断時間の短縮などを求める要望書を11月上旬にJR東日本横浜支社に提出した。これに対しJR側は「調査して後日回答する」とした。ただ過去に個人的に同じ要望をJRに出した近隣住民によると、駅に近い踏切はオーバーランの危険を想定しなければならず、短縮は難しいと説明されたという。また事故や停電などで電車が駅で待機する場合も、いったん警報を開始すると電車が決められた箇所を通過しないと鳴りやまない構造のため、長時間の遮断が発生する。

主に川崎市民の生活動線となっている南武線は、1929年に開通した。高層マンションが建設され発展した武蔵小杉を中心に、2000年ごろからこの地区の人口は若年層を中心に急増。その一方で川崎駅―武蔵小杉駅間は連続立体交差化が遅れており、現在も13カ所の踏切がある。

昨年末、この区間で仮線高架工法による高架化が決定。だが都市計画決定が当初の予定から遅れており、完成時期の見通しは立たない。川崎市の道路河川整備部の担当者は「現状は認識している。早急に改善しないといけない」と話している。

《地方に残る“勝手踏切”》全国の踏切は減少の一途をたどり、最大約7万カ所以上あった踏切は約3万3000カ所に減った。「踏切天国」の著書があり、都市計画や鉄道などを取材するライターの小川裕夫氏は「踏切は嫌われ者だけど、危険から僕らを守ってくれるもの。ルールさえ守れば、本来事故など起こらないはず」と力説する。地方には、地域住民が自主的に作って通る“勝手踏切”もまだ多く残る。「人は通い慣れた道をそう変えられない。家を少し早く出ましょう。それに踏切を待つ間、見ているだけでも楽しめますよ」と呼び掛けた。

※リンク先に写真があります
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