https://www.jiji.com/jc/article?k=2019051200295

航空自衛隊三沢基地(青森県)の最新鋭ステルス戦闘機F35Aが墜落した事故から1カ月が経過した。
フライトデータレコーダー(FDR)の部品は回収されたが、肝心の飛行データを保存したメモリーは発見に至っていない。
操縦していたベテランパイロットは依然行方不明で、厳しい状況が続いている。「訓練中止」の交信から墜落するまで
空白の約1分間の解明が原因究明の焦点だ。

◇訓練中止のなぞ

防衛省によると、細見彰里3等空佐(41)が搭乗したF35は4機編隊の1番機として4月9日午後6時59分ごろに三沢基地を離陸。
「B(ブラボー)」と呼ばれる訓練空域への進路や気象状況などを無線交信し、一緒に飛行する僚機に指示もしていた。

「ノック・イット・オフ(訓練を中止する)」と通信した約1分後の午後7時27分ごろにレーダーから機影が消えた。
訓練中止の理由に関する交信や救難信号は確認されていない。

◇緊急事態なら「エマー」も

戦闘機パイロット出身の空自OBは「墜落の恐れがある切迫した事態であればエマージェンシー(緊急事態)の表現を使う。
『ノック・イット・オフ』を使ったのは、何らかの違和感や異常を感じ、状況を確認するためにいったん訓練を中断しようとしたのではないか」
と指摘する。

操縦トラブルであれば、上下の感覚を誤認する空間識失調の可能性もある。F35のパイロットは高度や照準などの情報がバイザーに
表示される「HMD(ヘッドマウントディスプレー)」が付いた特殊なヘルメットをかぶる。HMDは機体のセンサーやシステムと統合され、
機体の6台のカメラを通じて、バイザーに映し出される映像を基に敵に照準を合わせることができる。ズームも可能だ。

ただ、夜間は慣れるまで自分の感覚と自機の状況にズレが生じることもあり得るという。軍事関係者は「普段から夜間訓練で
バイザーをオンにしていたかも事故調査の対象になるのではないか」と話す。

◇GAOは次々と「欠陥」指摘

機体の不具合の可能性もある。米議会付属の政府監査院(GAO)が昨年まとめたF35に関する報告書は、2017年5月から8月にかけて、
パイロットが酸素欠乏症を訴えた事例が6件あったと指摘した。共通の原因は特定されていないとしながらも、操縦席の生命維持システムに
関連する問題点について(1)操縦席の呼吸調節装置が頻繁に故障(2)呼吸調節器が機能しなくなったときに、コックピット内の空気を
吸うために開く弁の不具合(3)コックピット内の急激な気圧の変化−などと列挙した。政府関係者によると、酸素系統の不具合は
解消されているという。

今年4月の報告書は、安全に重大な危険を及ぼすと考えられる「カテゴリー1」に分類される欠陥は、これまで指摘された13件に加えて、
新たに4件確認されたと記述した。

また、生命維持システムに関する問題も指摘。政府職員や医師らで構成するチームが18年5月まで調査したが、システム上の欠陥は
特定されなかった。報告書は「飛行中のパイロットの健康状態をリアルタイムでモニターする手段がないことが、原因特定を困難にしている」
との調査チームの声も紹介。

このほか、過去にコックピットの表示がフリーズした事例があったことなども挙げている。大量の電子データを扱うことが原因とみられる。

◇後手の情報収集

岩屋毅防衛相は10日の記者会見で、GAOの最新報告について「新たに確認された課題の影響や、対応状況については現在、
米国政府に確認を行っている」と述べた。しかし、米国防総省は既に4月23日付でGAOに回答を送付しており、防衛省の情報収集が
後手に回っている感は否めない。

F35の開発参加国は米国を除くと8カ国。日本は開発に参加していない後発組だ。日米同盟があるからといっても、米国からみれば
F35ユーザー国の一つにすぎない。米国防総省運用試験・評価局やF35ジョイント・プログラム・オフィスとの太いパイプがなければ、
米議会やGAOのような第三者が指摘するF35の「欠陥」情報はリアルタイムで入ってこない。