「絶好の機会だ」。20日に日本で開幕するラグビーワールドカップ(W杯)を前に、ビール消費への期待を寄せるのは、英国風パブ「HUB(ハブ)」を運営するハブの太田剛社長。観戦に訪れる外国人ファンはオーストラリアやアイルランドなどビール消費が多いことで知られる国ばかりだ。桁違いの消費が見込まれるため、関係者らはビール不足を招かないよう臨戦態勢で臨む。

 ハブは約110の店舗を直営し、2002年に開催されたサッカーW杯日韓大会の際、一部の店舗では立ち飲みでも客が入りきらず、閉店前にビールが売り切れてしまうという事態を経験した。太田社長は今大会は当時のにぎわいを凌駕(りょうが)し、単月の売り上げが通常と比べて少なくとも5割増加すると予想する。

  大会の組織委員会によると、15年にイングランドで開催された前大会ではスタジアムと近隣の野外ファンゾーンで190万リットルのビールが消費された。350ミリリットル缶換算で540万缶を観客が飲んだことになる。同一のスタジアムで試合をした場合、ラグビーの試合はサッカーの試合と比べ、平均でビールの消費量が6倍だと組織委は算出する。

  しかも、ラグビー強豪国はビール消費量が多いことでも知られる。英調査会社のユーロモニターインターナショナルによると、成人1人当たりのビール年間消費量はアイルランドが118リットル、豪州は98リットル、英国は89リットル。いずれも日本の54リットルを大きく上回る。

  観戦チケットの3分の1は外国人が購入した。組織委の試算では、大会中に約40万人の外国人が訪れ、飲食など含め経済波及効果は約4400億円と見込む。欧米から多くの観戦客が訪れるラグビーW杯は、アジア以外の観光客を呼び込むためのアピールの場にもなる。

■懸念されるビール不足

  一方、懸念されるのがビール不足。組織委がW杯に向けた運営テストと位置付けた7月27日の日本−フィジー戦。会場となった釜石鵜住居復興スタジアム(岩手県)では気温が30度を超え、ハーフタイムには会場内の一部店舗でビールが品切れとなった。同様の事態がW杯で起きれば、外国からの観客などからの苦情も予想される。

  こうした教訓を得て、本番の大会では訪日客をもてなすためにも「絶対にビールを切らせてはいけない」と、ビール製造業者や卸業者、飲食店のオーナーも異口同音に意気込みを語る。組織委でもビールが品切れになれば、大会や開催都市にとどまらず、日本の評判にも悪影響を与え得るとの見解を示す。

  ハブは、開幕戦が行われる東京スタジアム(東京都調布市)の近隣店舗では当日、通常の7倍のビール在庫を確保する方針。大会期間中はアルバイトの採用を増やし、ビールの簡易サーバーを全店で増設して対応する。

  全国14会場のうち最北端は札幌ドーム。地元でアイリッシュパブを展開するブライアンブルーの代表取締役を務める長谷川竜介さんは、店内の座席を取り除き、スペースを必要とするビールたるの在庫は近所に車を止めて待機させる対策を講じる。より多くの客が店に入れるよう工夫するが、外国人ファンがどれくらい飲むかは「想像の域」でしかないと語る。

  また、準々決勝を含む5試合が予定される大分県では、酒類卸売業者のオーリックが人手不足の心配から、試合がある日にはスタッフを増員する。飲食店側も、大量に飲まれると採算が合わないとの懸念から、飲み放題サービスの中止を決める店舗が多いという。

■ビールを空輸も 

  大会スポンサーであるオランダのビールメーカー、ハイネケングループはスタジアムやその近隣に設けられるファンゾーンに独占的にビールを提供し、ライセンス契約を結んでいるキリンホールディングスが生産を担う。ハイネケンビールの製造拠点は全国でただ一つ横浜にあり、そこから全国の会場へと試合の5−6日前に運ばれる。

  キリングループロジスティクスの田仲栄一氏によると、もしビールが足りない事態が起きた場合には緊急措置として飛行機で会場近くにビールを運ぶことも検討しているという。大会の卸業者に選定された国分グループ本社との間で議論に上がり、共同で対応を進めている。

  ラグビーW杯のために来日予定のアイルランド在住のトニー・ドライネンさん(32)は、ビールを飲むことはラグビー観戦にとって「とても重要な社交行事」と話す。試合前に友人とパブに行き何が起きそうかについて話し、試合後にもゲームを振り返りながら飲むのが楽しみの一つだと述べた。大会の成功は十分なビールを供給できるかにも懸かっている。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-17/PWVY1HT0G1KW01