勢いが止まらない新型コロナウイルス。感染症に対応できる病床の不足など、医療の弱点が浮かび上がってきた。現場の医師や看護師は奮闘しているが、人手不足は深刻だ。弱点を指摘されても厚生労働省が事実上放置してきたことなど、国の問題も発覚している。いま病院が危ない。

【コロナショックを乗り切る!私たちができる自衛術とは】

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「まだ調査の途中でまとまっておりません」

 厚労省の宮嵜(みやざき)雅則健康局長は3月3日の参院予算委員会で、小池晃参院議員(共産党)の質問にこう答えた。感染症対策について、総務省行政評価局から問題点を調査・改善するよう求められていたのに、2年以上対応できていなかったのだ。

 感染症患者は、専門家がいて設備の整った「特定感染症指定医療機関」(国指定)や「第一種、第二種感染症指定医療機関」(都道府県指定)に、入院する決まりだ。

 国や都道府県は一定の地域ごとに専門家の医師や入院ベッド数(病床数)を確保し、いざというときに備えることになっている。

 ところが、この指定医療機関において、医師や病床数の不足や、院内感染対策の不十分さが相次いで判明。計画通りの患者の受け入れを危惧するところが、調べた44機関のうち10機関(約23%)に上った。行政評価局は2017年12月、全国の指定医療機関の実態調査をして不備があれば改善するよう厚労省に求めた。

 厚労省は都道府県を通じて指定医療機関に点検を要請し、調査結果は18年中をめどに整理すると、行政評価局に18年7月に報告した。だが今になっても調査結果は報告されていない。加藤勝信厚労相は参院予算委で次のように苦しい説明をした。

「調査をしていないのではなくて、具体的な結果を踏まえてもう一度精査をしている」

 今回のコロナショックでは、指定医療機関の設備や人材不足など、様々な課題が判明している。もし行政評価局の求めにきちんと対応していれば、より充実した体制ができていたはずだ。

 延期が決まった東京五輪を巡っても、会計検査院が感染症対策について19年12月に改善を求めていた。外国人選手団を受け入れる自治体が感染症リスク評価を十分できていないと、指摘されたのだ。

このように感染症への準備不足は政府内でも問題になっていたが、お金がかかることもあって整備は進んでこなかった。

 そもそも国は、感染症の患者が減ったことなどを理由に、指定医療機関の病床数を絞ってきた。病床数は18年で1882と約20年前(1999年)の半分強となっている。

 医師も全体的に足りない。日本感染症学会によると、300床以上の約1500病院だけでも常勤の感染症専門医が約3千人は必要なのに、半分程度しか確保できていないという。同学会は専門医の育成を訴えてきたが、09年の新型インフルエンザの流行などもあったのに、国の対応は遅れ気味だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は急いで病床を増やそうとしている。

 指定医療機関の対応病床だけでは足りないので一般病床も活用することなどで、2月末時点で5千床以上を確保できたとしている。現在の約2千床の倍以上だが、感染がさらに拡大すれば、患者があふれることになる。

 政府は専門病棟の設置など、さらなる対策を取ろうとしているが、設備や人材をすぐに集めるのは難しい。都内の大病院の幹部はこう明かす。

「感染症患者を受け入れるには専門的な知識が必要で、病院内のルールや体制も整えなければならない。指定医療機関でないところでは通常2〜3年はかかります」

 新型コロナウイルスの感染者増で、医師や看護師には大きな負担がかかっている。日本の医療は質が高いとされているが、現場の余力は限られているのだ。

 日本の医師数を人口1千人当たりでみると2.43人で先進国の中では少ない。経済協力開発機構(OECD)の加盟国のうちデータのある29カ国中26位にとどまる。医師の総数で見ても、加盟国の平均約44万人に対し約32万人だ。

 人手不足は長時間勤務を招く。厚労省によると、勤務医の4割に相当する8万人が、過労死ラインの月平均80時間を超える時間外労働を強いられている。年間勤務日数も35%が300日以上で、1カ月当たり5日の休みを取るのがやっとだ。医師が過労死するケースも後を絶たない。

2020.4.3 11:30 全文はソース元で
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