新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人々は免疫を獲得できているのだろうか──。この問いについて専門家らは、まだ明確な答えを見つけることができておらず、大きな疑問として残っていると指摘する。

■免疫はどのように獲得されるのか?

 免疫について、仏マルセイユ(Marseilles)市公立病院機構の免疫学専門家、エリック・ビビエ(Eric Vivier)教授は、「免疫があるというのは、あるウイルスを撃退できるだけの免疫反応が起きるようになるという意味だ」「ヒトの免疫システムは(一度感染したウイルスを)記憶するため、通常は後に同じウイルスに感染することがなくなる」と説明している。

■新型コロナの不確定要素

ー免疫の持続期間は?

 感染症の中には、一度感染して回復すれば生涯にわたる免疫(終生免疫)獲得となるものがある。はしかなどがその例だ。

 だが、新型コロナウイルス感染症を引き起こす「SARS-CoV-2」のようなRNAウイルスでは、十分な量の抗体ができるまでに約3週間かかる上、その免疫による防御効果はわずか数か月しか持続しないことが考えられるとビビエ氏は指摘する。

 世界保健機関(WHO)健康危機管理プログラム(Health Emergencies Programme)のマイケル・ライアン(Michael Ryan)氏は、最近の記者会見でこう述べた。

 「新型ウイルスについては相当期間、防御効果が持続することをわれわれは期待しているが、それを判断するのは非常に難しい。われわれが唯一できることは、他のコロナウイルスから推定することのみで、そうしたデータも極めて限られている」

 英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(University College London)遺伝学研究所のフランソワ・バルー(Francois Balloux)所長によると、2002年から翌年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)では、回復した患者の免疫持続期間は「平均して約3年」だったという。SARSは、コロナウイルスの一種による感染症で、世界で約800人を死に至らしめた。

 「再感染は確かにあり得るが、回復後、どの程度たってからなのか? われわれは、さかのぼって知ることしかできない」とバルー氏はいう。

ー再感染?

 実際、韓国や日本では、回復後の患者の検査で陽性結果が出た例がある。ただし、この結果についてはいくつかの考え方ができると科学者らはいう。

 まず再感染していた可能性はあり得なくはないが、実際に起きている証拠はほとんどない。

 より可能性が高いのは、最初のウイルスが排出されきらずに休眠・無症状状態で体内にとどまり、ヘルペスのような「慢性感染症」になることだとバルー氏は述べる。

 また新型コロナについては、ウイルスおよび抗体検査がいまだ完全ではないため、実際にはウイルスが消失していないのに検査で陰性と出る「偽陰性」の可能性もある。これについて同氏は、「その場合、数週間ほどの長期にわたって、感染力が持続する可能性がある」と警告する。

ー抗体が存在すれば、免疫がある?

 公式発表されていない中国・上海での研究では、回復した患者175人を観察したところ、症状の発現から10〜15日後の抗体量に違いがあった。

 「だが、抗体反応が起きることが、免疫獲得を意味するかどうかは別の問題だ」と、WHOの新興感染症対策部門を率いるマリア・ファン・ケルクホーフェ(Maria Van Kerkhove)氏は述べる。「免疫という文脈で、抗体反応をどう捉え得るのか。われわれが真に理解する必要がある点だ」

ー抗体によって症状が悪化する可能性は?

 仏パスツール研究所(Pasteur Institute)研究員のフレデリック・タンギー(Frederic Tangy)氏は、患者の抗体ができた後に最も深刻な症状が生じている点を挙げ、「ウイルスに対してできた抗体が、症状悪化のリスクを高める可能性はある」と指摘する。

 そして、誰の抗体がより有効なのかも現時点ではわかっていない。有効に働くのは、命を落としかけた患者の抗体なのか、軽症で済んだ患者の抗体なのか、それとも無症状の患者の抗体なのか。さらには年齢は関係するのかについても不明だ。

 これらの不確定要素を理由に、人口の大半に免疫がつけば、ウイルスは新たな「餌食」を見つけることができずに消滅するという「集団免疫」戦略の提唱に疑問を呈する専門家もいる。

 豪カーティン大学のアーチー・クレメンツ(Archie Clements)教授は、「現時点において、唯一かつ真の解決方法はワクチンだけだ」とAFPの取材で述べている。

https://www.afpbb.com/articles/-/3279544?cx_part=common_focus