辞意を固めた東京高検の黒川弘務検事長(63)はひょうひょうとした気さくな人柄で知られ、政治家とは与野党問わず緊密に付き合った。「政権寄り」との評も根強く、各方面から、政府が定年延長を閣議決定したのは「次期検事総長に就任させるため」との声が上がっていた。

 黒川氏は東京大法学部を出て1983年、検事に任官した。法務省勤務中心の「赤レンガ派」の行政官僚で、2019年1月の東京高検検事長就任まで約7年半にわたり、官房長、事務次官を務めた。


 黒川氏と共に仕事をしたことのある法曹関係者は、緊縮財政下の19年4月、同省の入国管理局が出入国在留管理庁に格上げされたのは「黒川氏の政治力あってのこと」と分析。別の関係者は、野党の反発が強かったテロ等準備罪新設を含む組織犯罪処罰法の改正(17年6月成立)にも「貢献があった」と話す。
 相手の懐に飛び込むのが上手だったといい、「人たらし」とも言われた黒川氏。定年となる63歳の誕生日を8日後に控えた1月末、政府が半年間の勤務延長を閣議決定した背景には、こうした「政治力」があったとみる向きもある。
 次期検事総長候補の一人、林真琴名古屋高検検事長(62)の定年は7月で、「林氏退官後に現在の稲田伸夫総長が勇退すれば、黒川総長が誕生する」との筋書きで延長したとの見方だ。
 ある元検事は「こういう報道が出る人が上にいれば、現場は嫌悪感を持つ。総長になったとしても、下はついてこないだろう」と話した。黒川氏を知る別の元検事は「結局、調整力の高さを法務検察にも、政治にも利用されてしまったのかもしれない」と同情した。

時事通信 2020年05月21日07時10分
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