新型コロナウイルスの影響による社会活動の低下は、大阪、兵庫、京都の関西3府県の経済に深刻な打撃を与えた。

 観光産業を中心に倒産が相次ぎ、人材流出の動きが強まっている。3府県の緊急事態宣言は21日に解除されたが、再生の道筋は見えていない。

■急転

 「2月は売り上げが落ちなかった。まさか、3か月後に倒産するとは想像もしなかった」

 13日、大阪地裁から破産開始決定を受けたタクシー会社「ふれ愛交通」(大阪市)元社長の道野隆さん(61)が語る。

 運送会社での勤務経験を生かし、2004年に同社を設立。タクシー約15台から始まった会社は、訪日外国人増加の波に乗ってタクシー約100台、従業員120人に急成長した。

 しかし、新型コロナの感染が拡大した3月に入って客が減り始め、緊急事態宣言が出た4月の売り上げは前年比80%減と急落した。

 「今が我慢のしどき」。運転手らに説明して予約だけの営業に切り替え、各方面から借金をしたが、今月、資金繰りがつかなくなった。11日、残務整理などの一部の従業員を除き、30歳代〜70歳代の運転手約80人を解雇。解雇を告げた従業員たちからは「頑張って続けられないのか」「もっと早く決断できなかったのか」と厳しい声をあびた。

 道野さんは「今の情勢では従業員の再就職も厳しく、他に方法はなかったかと悩み、寝られない。新型コロナが憎い」と悔やんだ。

 ファッションの街・神戸では、感染拡大の影響でアパレル関連の5社が経営破綻した。その一つ、婦人服店を経営する「バロン」(神戸市)の創業者の橘川高春さん(40)は「アパレルは外出自粛の影響を受けやすく、どうしようもなかった。今は何も考えられない」とうなだれた。

■損失6900億円

 民間信用調査会社「帝国データバンク」(TDB)によると、3府県での感染拡大の影響による倒産(負債額1000万円以上)は27件(22日現在)にのぼる。ホテルチェーンや空港での土産物の納品業者などの観光産業が目立つ。

 関西経済の予測・分析を行う「アジア太平洋研究所」(大阪市)は、3府県の経済損失は宣言発令後1か月間だけでも6984億円にのぼると試算した。

 稲田義久・数量経済分析センター長(甲南大教授)は「関西経済は訪日外国人客への依存度が高く、より大きな影響が出てしまった。宣言が解除されても渡航制限は継続されており、人との接触を避ける行動などで経済活動の低迷も続く。今後の先行きは暗い」と指摘した。

 関西経済を下支えした観光産業では人材流出の兆候が出始めている。

 人材サービス会社「エン・ジャパン」(東京)が提供する転職サイトでは、ホテル従業員や旅行会社従業員らの転職希望者の登録が急増。1〜3月は前年比4割増の約7000人に達し、過去最高水準となった。担当者は「今後、再生に向かっていく際に担い手不足という新たな問題が生じかねない」と懸念する。

■不安

 不安を抱えながら、新規事業に活路を求める人たちもいる。

 京都市内でゲストハウスを経営する金志遠さん(41)は、利用客らの人脈を活用して、西陣織マスクを海外へ販売する事業の準備を進めている。

 京都市では3月、主要ホテルを利用した外国人が約9割減少。欧米の観光客で連日満室だった金さんの宿も3月以降は予約がなくなった。廃業が頭をよぎった時に思いついたのが、商店街の店頭で見かけた西陣織のマスク。欧米人が好むデザインで、マスク文化が定着しそうな海外で売れると判断した。

 「新たな一歩を踏み出すつもりだが、今後、日本や世界がどうなるのかわからず、不安がぬぐえない。新事業で何とか生き残ろうとする人は多く、公的支援を続けてほしい」。金さんはそう訴えた。
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