【ワシントン=中村亮】トランプ米政権がニューヨーク州南部地区のジェフリー・バーマン連邦検事の事実上の解任を画策したことが19日、明らかになった。同検事はトランプ大統領の元側近や関連組織の捜査を率いる。トランプ氏が司法介入を狙った疑いがあり、議会は徹底追及する構えだ。

バー司法長官は19日の声明でバーマン氏が辞任すると明らかにしたうえで「民事や刑事案件で数々の成功を収めた」とたたえた。後任が議会上院で承認されるまではニュージャージー州の連邦検事が7月3日から代行を務めると説明した。

だがその数時間後にバーマン氏は声明で「私は自分の辞任に関して報道発表で知った」と指摘。「私は辞任していない」と説明し、捜査を継続すると表明した。捜査や人事をめぐり両者が対立し、政権がバーマン氏の解任を狙ったとみられる。

ニューヨーク南部地区の検察局は世論の大きな関心を引く政治案件を担当することで知られる。米メディアによると、バーマン氏はトランプ氏に近いジュリアーニ元ニューヨーク市長や元顧問弁護士のマイケル・コーエン受刑者の捜査を担当。不透明な資金の流れが指摘されていたトランプ氏の大統領就任式実行委員会も捜査対象だ。解任によって一連の捜査に政権が介入を試みた可能性は排除できない。

政権がバーマン氏を解任できるのかは現時点で不透明だ。検事は大統領が指名し上院が承認する手続きが通例だが、バーマン氏は例外的に南部地区の連邦裁判所によって任命された。米メディアによると、このケースでは解任の権限があるのは裁判所の可能性が高い。後任が上院で承認されれば職を譲る必要があるという。

ただ政権の人事の異様さは後任をみても明らかだ。ホワイトハウスは19日、後任に米証券取引委員会(SEC)のジェイ・クレイトン委員長を指名すると発表した。クレイトン氏は検察として働いた経験がない。検事はそれまで務めてきた検事局から指名されるのが慣例で、外部者が就任すればニューヨーク州の南部地区では初めてだという。クレイトン氏はバー氏と親しい関係でもある。

トランプ氏は南部地区の検事交代をほのめかしていたとされる。ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が出版予定の暴露本では、南部地区の検察がトルコの銀行を捜査していたことをめぐり同国のエルドアン大統領がトランプ氏に銀行の無実を主張。トランプ氏は「検察はオバマ(前大統領)に近い人たちだ。私の味方に代われば問題は解決する」と語っていたという。

野党・民主党の上院トップを務めるシューマー院内総務は19日、「金曜日夜遅くの解任劇は法的プロセスに関する汚職の可能性に満ちあふれている」とツイッターで指摘した。ジェロルド・ナドラー下院司法委員長は詳細な経緯を把握するためバーマン氏に議会証言を求める考えを表明した。

トランプ氏にはこれまでも司法介入の疑いが浮上してきた。元大統領補佐官のマイケル・フリン氏の裁判では司法省が起訴を突然取り下げる異例の判断をした。フリン氏の無罪を主張したトランプ氏の意向を踏まえてバー氏が撤回した疑いがある。トランプ氏はロシア疑惑の捜査を担当したコミー前米連邦捜査局(FBI)長官を解任したこともあった。

日本経済新聞 2020/6/20 20:00
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60605900Q0A620C2EA2000/?n_cid=SNSTW001