新型コロナウイルスの影響で、経済的に苦しい状況に追い詰められる人たちが増えている。さまざまな事情から公的支援を受けられず、孤立し、さらに困窮する人も。「行く場所がないんです」。東京・池袋の公園にいた男性(38)も、そんな一人だった。
 手提げかばん一つで、都内の更生保護施設を逃げ出したのは、今月十二日。犯罪をした人らの自立を支援するこの施設に連れ戻されるのではと心配し、受け取ったばかりの特別定額給付金の十万円で服や靴を買い、散髪して「変装」した。携帯電話をレンタルし、池袋などの個室DVD店に五泊すると、所持金は三十三円になった。
 愛知県生まれ。子どものころから気持ちを話すのが苦手だ。小学生で父を亡くし、母の実家がある九州へ。いじめが原因で高校を中退し、横浜市へ移って警備や清掃の仕事をして暮らした。母はその後亡くなり、唯一の親族である弟には二十年近く会っていない。
 職場の人間関係に悩み、うつ病を発症して二十八歳で仕事をやめた。生活保護を利用するも、心の隙間を埋めるようにパチンコへ通った。食費すら残らず、弁当などを万引して刑務所に入るのを二度繰り返した。
 ことし四月末に出所し、施設に入った。施設では他の滞在者に「使えない」「わがまま」と悪口を言われ、無視された。「どう思われているかが気になってしまう。友達はいない」。逃げ出したのは、「生き延びるため」だという。
 施設を出てすぐ、ケースワーカーに電話した。相談に乗ってほしかったが、「我慢して戻りなさい」とあきれられ、一方的に切られた。「さみしかった。話せる人は誰もいない」
 薬を持たなかったため、不眠の症状がひどい。DVD店で二日間眠れず、フラフラしながら昼間の街を歩いた。所持金がなくなると、公園の花壇の縁で横になった。「ずっと一人で生きてきた。コロナは怖い。感染したら、誰にも助けてもらえない」
 新型コロナの感染拡大で生活に困り居場所を失った人らに、都はホテルを提供する救済事業を実施した。男性は施設にあった新聞を読んでこの事業を知ってはいたが、出所後に生活保護の医療扶助を受けたため、「自分は無理だろう」と確認せずにあきらめていた。
 休んでいた公園にも、都知事選の候補者のポスター掲示板が設置されていた。「新しい知事には、自分みたいに困っている人を救ってほしいですね」。男性は、告示前日でまだ空白のままの掲示板を見つめながら、つぶやいた。
 「都の救済事業を最近まで知らず街をさまよっていた人や、利用を求めた役所に『担当が違う』などと追い返された人もいる」。池袋周辺で生活困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI」の清野賢司事務局長は、必要な公的支援につながれない人がいる現状を憂う。
 「男性のように孤立し、刑務所と施設を行き来する人もいる。犯罪を繰り返さないためにも、わかりやすく、丁寧な施策が必要。支援を責任を持って続けるワンストップ型の体制を、都が率先してつくってほしい」と訴えた。
 男性はその後、清野さんらの助けで、自立支援センターに入った。 (中村真暁)