記録的猛暑だった2010年の夏、全国で5万4000もの人が熱中症で救急搬送された。
そのうちの1718人は、不幸にも亡くなってしまった。

搬送された人のうち、約半数が、65歳以上の高齢者だったという。

熱中症は、汗などで体内の水分が失われることにより起こる。
つまり、脱水を起こしているのだ。認知症と、まったく同じである。

5パーセント(1250cc)の水が失われると、運動機能が低下し、足元がおぼつかなくなる。
ちょっとした距離でも、移動することが難しくなってしまう。

7パーセント(1750cc)水分が不足すると、誰でも幻覚が見えるようになる。認知症の人で幻覚がある場合、
認知症の症状なのか、熱中症の脱水なのか、判断することは難しい。「天井に顔がいっぱいある」と言った認知症のおじいさんに対し、
家族が「また、おかしなことを言っている」と取り合わなかったばかりに、熱中症で亡くなってしまったという例もある。

そして10パーセントの水分欠乏で人は死ぬ。体重50キロの高齢者の場合、2500cc、洗面器1杯分の水分が足りなくなるだけで死んでしまうのだ。
夏場の暑いときに熱中症で亡くなるのは、この10パーセントの水分欠乏が原因なのである。

たかが水分と侮ってはいけない。熱中症はとても恐ろしい病気なのだ。

水が不足すると、体にはどのような変化が起こるのだろうか? 2〜3パーセント(500〜750cc)不足すると、
発熱が起こり、循環機能に影響が現れる。

体では、細胞の中で発生した熱を捨てるために、水が使われている。
水が不足すると、熱を外に出すことができず、蓄熱が起こって、熱が出始める。脱水の兆候として「微熱」が挙げられるのはこのためだ。

高齢者の場合、普段の体温が低いため、36・5度を超えたら発熱だと考えてよい。
特に認知症の場合、36・5度ぐらいですでに脱水を起こしていると見て間違いない。

放っておくと、循環機能に影響が出てくる。水分が減り、血液がどんどん濃縮していくのだ。
つまり、血液がドロドロになる。血の循環が悪くなり、最悪の場合、脳梗塞などが起きてしまう。

水不足により血がドロドロになることは、特に高齢者の場合、非常に危険である。

高齢者は、よく明け方に脳梗塞を起こすことがわかっている。朝早く、トイレに行こうとしても体が麻痺して動かない。
朝、なかなか起きてこないので、家族が様子を見に行くと、意識を失っていることがある。それは水不足が原因である。

寝ている間にも、呼気などにより、体からどんどん水分が出てゆく。眠っている時は水を飲むことはできないため、
ちょうど明け方に最も水分が少なくなる。その時刻が一番危険なのだ。

「夜寝る前にコップ1杯の水を飲め」と言うが、これはとても大事なことだ。
睡眠中、水分は減る一方だから、あらかじめ補給しておくということである。


竹内 孝仁
医学博士。1941年東京生まれ。日本医科大学卒業後、東京医科歯科大学助教授、日本医科大学教授を経て、2004年より国際医療福祉大学大学院教授。
日本ケアマネジメント学会理事。NPOパワーリハビリテーション研究会理事長など多数の委員等を歴任。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74783?imp=0