新型コロナ「第二波がこない」スウェーデン、現地日本人医師の証言


2019年にはスウェーデンにおける70歳以上の高齢者は約150万人であった。19万1910人が自宅でヘルパーの助けを借りる要介護者であり、
7万9410人が介護施設に居住する高度要介護者であった(2020年1月時点)。

つまり、70歳以上の高齢者のうち、約18%が要介護者である。スウェーデンの新型コロナ感染症による死亡者の90%が70歳以上の高齢者であり、
死亡した高齢者の約80%が要介護者である(図6)。

スウェーデンで高齢者を中心に死亡者が多く出たのは、介護施設でのクラスターが多発し、
自宅に住む高齢者へもヘルパーを介して感染が持ち込まれたためである。この周辺については、前稿を参照されたい。

多くの犠牲者が出た介護施設であるが、介護施設の入居者の過半数は認知症を患っており、
残りは、基礎疾患を複数持つ全身状態の良くない高齢者である。入居してから死亡するまでの期間は比較的短いことが知られている(図7)。

入居期間が中央値で2年前後というこのデータは、予後が長い認知症患者を含むため、認知症以外の患者に関してはさらに短くなる。

同様に認知症の患者を含んだデータであるが、入居後18カ月までに約40%が死亡することがわかっている(図8)。
介護施設の入居者は予後が良くないという理由により、社会庁は、介護施設での感染者は原則として病院には搬送しないとする指示を出していた。

これは、新型コロナ感染症に限るはずであったが、介護施設で常駐医師がいないなど医療従事者が不足しており、
医師が遠隔診断で病院に搬送しない判断をしたケースもあったようである。

その中には、適切な診断が下されないまま、救命目的の治療ではなく緩和治療に自動的に移行したケースもあり、
不幸な転帰をとった高齢者も存在した。この点は、大きな社会問題となっており、今後、外部調査委員会の調査により、改善すべき点が明らかにされることになっている。

一方で、新型コロナ感染症による死亡者の平均年齢は、現時点での社会庁の統計によると83歳であり、2019年のスウェーデンの平均寿命は83.1歳である。
83歳時点における平均余命は、スウェーデンの生命表によると7年程度であるが、前述の通り、介護施設に入居している基礎疾患を持つ要介護高齢者の予後は悪く、したがって、平均余命は短いと考えられる。

そのため、新型コロナウイルス感染により、死亡が若干前倒しになっただけだとする見方もある。
もしそうであるとすれば、長期的には超過死亡率は相殺されてくるはずである。例年よりも多かった死亡者数は、現在では、例年以下にまで減少している(図9)。

実際、超過死亡率は低下し、ロックダウンをした他のEU諸国と比べても、超過死亡率は多いとは言えない(図10)。


宮川絢子(みやかわあやこ)◎スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務。平成元年慶應義塾大学医学部卒業。
日本泌尿器科学会専門医、スウェーデン泌尿器科専門医、医学博士、カロリンスカ大学およびケンブリッジ大学でポスドク。2007年スウェーデン移住。
https://forbesjapan.com/articles/detail/36353/3/1/1