<地球異変・「コロナ後」と温暖化(上)>

◆「自粛」だけでは食い止め不可能
 新型コロナウイルスの感染拡大の中、4〜5月に出された政府の緊急事態宣言。人の移動や経済活動の自粛に伴い、温室効果ガスを大量に排出する電気やガソリンの使用は減ったが、6月以降は宣言前の水準に戻りつつある。データからは、個人の行動を変えるだけでは、地球温暖化を食い止められないことがはっきりと分かる。(福岡範行、小川慎一)
 温暖化対策では、産業革命以降の世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えることが国際的な目標となっている。温暖化による暑さは労働生産性を低下させる面もあり、国際労働機関(ILO)は、2030年には約2兆4000億ドル(約250兆円)の経済的損失が生じると試算する。

 地球環境戦略研究機関(IGES)がまとめた「1.5℃ライフスタイル」報告書によると、日本人の平均的な生活で1年間に出る温室効果ガスは、二酸化炭素(CO2)換算で1人当たり7.6トン。目標達成には2050年までに0.7トンに抑える必要がある。
 4〜5月、会社に出勤しないテレワークや、大型連休中の旅行や帰省の自粛で人々の移動量が大きく減り、CO2排出量は減った。移動は1人当たりの総排出量の2割を占め、自動車が大きな排出源だ。
 国土交通省の調査によると、4〜5月のガソリンと軽油の消費量はいずれも前年同月比で20%以上減少した。ただ、温室効果ガスの削減量で試算するとCO2換算で約704万トン分。1人当たりでは0.05トン程度の減少にとどまった。

 燃料消費の減少は長続きしそうにない。4〜5月に落ち込んだガソリン販売量は、6月に前年同月比で5%減にまで回復した。
 一方、電力需要は在宅が多くなり家庭部門が微増したものの、全体としては4月は前年同月比で3.6%減、5月は同9.2%下がった。温室効果ガス削減量で試算すると、CO2換算で約424万トン分。1人当たりだと、0.03トン程度の減少だった。
◆発電・移動を「脱炭素型」に
 報告書によると、総排出量の3割を占める「住居」分野では発電に石炭などを使っていることでCO2排出が多い。外出や経済活動をただ我慢するだけでは、排出削減に限界があり、発電や移動の方法も脱炭素型に変える必要がある。
 IGESの試算では、家の電気を再生可能エネルギーに変えると、年間で1人当たり最大1.2トン、車を電気自動車(EV)にすると年間で最大0.5トン排出量を減らせる。ただ全員がこれらの選択を取ると、石炭に依存する電力会社や石油に関わる企業の経営が厳しくなり、多くの失業者が出る恐れがある。
 IGESの小嶋公史さとし上席研究員は「産業構造の変化で一時的につらい状況になる人たちの生存を守らないと、転換は難しい」と指摘。コロナショックによる「痛み」を教訓にすれば、失業者の生活保障、近場で楽しめるレジャーの充実といった生活の豊かさを保つ工夫が重要になってくる。

 「1.5℃ライフスタイル」報告書 公益財団法人・地球環境戦略研究機関(IGES)が300項目以上の消費の統計を基に、日本の平均的な生活を想定し、商品やサービスの製造、消費、廃棄などの過程で排出される温室効果ガス(二酸化炭素に換算)の量を計算。脱炭素型の暮らしを実現するための選択肢をまとめた。2019年2月に英語版を、20年1月に日本語要約版を公表した。

東京新聞 2020年8月24日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/50672