一度でも性交渉の経験があれば誰でもなる可能性


HPV(ヒトパピローマウイルス)は性的な接触で感染します。
年頃のお嬢さんや男の子の8割ぐらいは若い時期に感染すると言われているぐらい、ありふれたウイルスです。

ただ、ほとんどの方は検査でも検出されないぐらい排除されるのですが、潜伏するかのように残ることがあります。
持続的に感染した人の中から、約10%ほどの人に病気が出てきます。

上皮内の細胞の形態に変化が起きて、軽度から中等度、高度の「異形成」という前がん病変が出てきます。
高度異形成は「上皮内がん」とも言います。

ここまでであれば命に関わることはないのですが、そこからさらに遺伝子の異常が出てきて、
本当のがんである浸潤がんになっていきます。実際はHPV感染者の中で、1%未満の方が浸潤がんになるということがわかっています。

ここまでに感染から数年から数十年がかかりますが、私の患者さんでは最短3年です。
18歳でボーイフレンドができて、がんになりやすいHPV18型に感染して、21歳で亡くなった子宮頸がん(腺がん)の方がいます。

進行のスピードはそれぞれの免疫に左右されます。これを裏返すと、一度でも性交渉の経験がある全ての女性に子宮頸がんのリスクがあるということです。
このことは男性が知っていただかないと本当の予防は進まないということを強調します。

ヒトパピローマウイルスは数多くの種類があります。特に今あるワクチンで予防できる16型、
18型が子宮頸がんの過半数を超える原因だということを発見したツア・ハウゼン博士はノーベル賞も受賞しました。

この研究を元にHPVワクチンやHPVの検出ができる検査キットの開発につながりました。
今、日本で小学校6年生から高校1年の女子が無料でうてる定期接種となっているのは、2価と4価のワクチンです。
2価は、16型、18型への感染を予防するもの、4価はそれに加えて男性にもできる良性のコンジローマというイボの予防効果もあります。

実は多くの国は9〜14 歳は2回接種で十分免疫ができるということがわかっていて、2回に切り替えています。日本はまだ3回接種です。

さらに米国では90%以上の子宮頸がんを予防する「9価ワクチン」が女子にも男子にも定期接種化され、11〜12歳に男女とも2回接種をしています。
ここまで海外と日本には大きな差ができています。

日本は先進国の中でもHPVワクチンの接種プログラムに失敗した国、というレッテルを貼られています。
もう一つ知っていただきたいのは、WHO(世界保健機関)は全世界に高らかに、世界的な公衆衛生上の問題として、
子宮頸がんを排除しようと宣言していることです。つまり、国ごとにきちんと接種プログラムを作って、子宮頸がんを排除していこうという宣言です。

「がんを排除」したとする基準は、10万人あたり4人以下しかかからなくなった状態を指しますが、日本は10万人あたり17人ぐらいいます。
まだまだ目標には届いていない。さらに検診もワクチンもうまくいっていない。それが日本の現状です。

私は子宮頸がんの治療を専門とする医師ですが、日々、患者さんと接する時、
なぜこんなに健康な美しい方たちが子宮頸がんで命の危険に晒されるのか、本当に悲しく思っています。

海外から素晴らしいエビデンス(科学的根拠)が出ても、それが日本の一般の方々に伝わっていません。
せめて、私たちが海外のデータをわかりやすい言葉で紹介しようと、「横浜HPVプロジェクト」というサイトを立ち上げています。http://kanagawacc.jp/

ぜひ一度、訪れてみてください。びっくりするような海外の進んだデータを紹介しています。


【宮城悦子(みやぎ・えつこ)】横浜市立大学産婦人科主任教授、日本産科婦人科学会特任理事(子宮頸がん検診・HPVワクチン促進担当)
日本臨床細胞学会細胞診指導医・理事。日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・理事。日本産科婦人科学会特任理事。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/cancerx-miyagi