鎌倉市が2018年の憲法記念日の講演会で憲法学者の木村草太氏の講師起用を拒否した問題で、同市が講演会の前に、木村氏の起用を提案した実行委員会に事実と異なる説明をして主催者から外していたことが分かった。市は「担当者が事実誤認していた。虚偽という表現も当てはまるかもしれない。申し訳なかった」と話した。識者は、誰が主催者かは講師を決める上で重要だとし、市の説明を問題視している。(石原真樹)
◆担当者が事実誤認?
 講演会を含む平和事業の主催は17年までは市と公募で選ばれた市民でつくる実行委だった。しかし実行委の議事録によると、実行委が提案した木村氏の起用を市側が「政治的」として拒否した後に開かれた18年3月の会議で、市担当者は「共催基準が変わった」とし、実行委を主催者でなく「企画・運営」にすると報告した。「活動のあり方は全く変わらない」とも説明し、委員の了承を得た。
 しかし今年3月、市文化人権課(4月に文化課に名称変更)は取材に「(主催から外す根拠となるような)共催基準の変更はなかった」と答え、「議事録の内容は事実でなく、虚偽という表現も当てはまるかもしれない」と話した。当時の担当者は「基準が変わったとの認識があり、それを言ったのではないか」と話しているという。
◆「市民をばかにしている」
 主催から実行委を外した理由は、市と実行委の主催では、実行委が市に事業ごとに事業の申請をするという決まりがあり「実行委に負担がかかるため」などと説明した。当時、委員に説明したかは「担当者の記憶が定かではない」、議事録に記載しなかった理由は「分からない」とした。
 当時の委員の一人は取材に、こうした説明は聞いた記憶がないとし「市民をばかにしている。市の説明にうそがあったら信頼して議論ができない」と憤った。
◆「あまりにも不誠実」
 武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法学)の話 主催者は、講演会の講師を誰にするかなど決定権を持つ。主催者を市だけにするという変更は大きな意味があるにもかかわらず、変更の根拠となる事実が存在しないのは、あまりに不誠実。「活動のあり方はこれまでと全く変わらない」という説明も問題がある。

東京新聞 2021年7月14日 11時47分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/116591