わずか2カ月前の危機は一体どこに。新型コロナウイルスの「第5波」が、急速に収束した。
要因を突き詰めなければ、「第6波」への備えも見えない。AERA 2021年11月1日号の記事を紹介。

新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を振るった「第5波」。7月末から連日1万人を超す新規陽性者が発生し、
入院できずに自宅療養を余儀なくされる人たちがあふれた。8月20日には2万5868人とピークを迎えたが、9月に入って大幅な減少が続く。

とりわけ劇的に減ったのが東京都だ。10月22日には26人と今年最少を更新した。
1日あたり5千人を超えた8月21日からの2カ月で、100分の1以下になったことになる。

「これは劇的な変化です。これが本当なら、そのメカニズムを科学的に究明し、感染対策に活用すべきです」
こう唱えるのは、感染症に詳しい長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授だ。

政府は冬にもやってくるとされる「第6波」への警戒を呼び掛けているが、
専門家も感染者が激減した要因をはっきりと分析できていないのが実情だ。

山本教授は「ワクチン接種が進んだことが大きな要因であることは間違いありませんが」と指摘しつつ、
「公表されている感染者数が実態と比べてどの程度“妥当”なのかという検証がないと、減少の正しい要因も評価できません」と主張する。

そのため、特定の病院の感染者数やウイルスの変化を分析するなど「定点観測も必要です」と提言する。
その上で、長期的な観点から「フェーズの変化」にも着目すべきだと唱える。

「これまでの人類とウイルスの関係を見れば、感染者をゼロにすることは無理です。
であれば、ウイルスとどう付き合うかということになります。ワクチン接種が進み、感染しても重症化しない、
あるいは重症化した人もしっかりとした医療が受けられるようになれば、感染者数だけに焦点を当てるフェーズから変化する時期に差し掛かっていると思います」

日本は現在、人口の7割近くがワクチンの2回接種を終えている。免疫を獲得している人の割合が増えているのも確かだ。
重症化を防ぐワクチンの効果も明らかになり、治療薬の開発も進む。新型コロナは徐々にではあるが、「重症化しにくい感染症」に変わりつつある、といっていいだろう。

「そうなったとき、『感染しない』ことが最重要課題なのでしょうか。私たちはどういう社会を選択するのか。本当に減らすべきものは何なのか。いまこそ、議論が必要です」

山本教授は、感染者数に重点をおいて流行の状況を評価するのではなく、
重症者数や死亡者数の推移といった指標に重点が移っていくフェーズに入りつつあると考えている。

一方、感染者減少の最大の要因は「ウイルスの季節性」にあると指摘するのは、医療ガバナンス研究所の上昌広理事長だ。

「日本だけでなく、北半球の先進各国で8月下旬〜9月にかけて軒並み減少モードに入っているのがその理由です。
行動規制を解除している国でも減ったので、人流はさほど影響していないと思います」

ただ、英国は10月第2週あたりから感染者数が上昇傾向に転じた。ドイツも10月に入って下げ止まりの傾向が見られる。
「これらは、冬の流行が始まったからだと見ています」と上さんは言う。

両国に共通するのは緯度の高さだ。日本でも13日、厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」が、
秋田や岩手などの一部地域で、感染者1人が何人に感染させるかを示す「実効再生産数」が上昇していることを指摘した。北海道でも感染者数の下げ止まり傾向が見られる。

新型コロナの感染拡大が始まった昨春以降のパターンを参考にすると、日本国内での新型コロナの流行期は冬、春、夏の年3回ある。
冬場のピークは1月中旬、春のピークは4カ月後の5月中旬、夏場のピークは3カ月後の8月下旬だ。

夏のピークと冬のピークは5カ月の間隔が空く。変異株の影響で感染者数が膨らむと、ピークが後ろにずれ込む傾向も見られるという。

こうしたデータをもとに上さんは、「第6波」のピークに見舞われる時期を「来年1〜2月ごろ」と予測する。
https://dot.asahi.com/aera/2021102500048.html?page=1

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