ウクライナ情勢をめぐるアメリカとロシアの協議が10日、スイスのジュネーヴで行われ、ロシア側はウクライナへ侵攻する意図はないとアメリカに伝えた。

7時間にわたる協議では、双方の政府高官がウクライナ周辺での緊張緩和に努めると合意したものの、事態打開の兆しはなかった。

ロシアはウクライナ東部の国境付近に10万人超規模の部隊を動員しており、西側諸国では、ロシアによる軍備増強への懸念が高まっている。

アメリカは、ロシアがウクライナに侵攻した場合には制裁を科すと警告。ロシアはこれに対し、ロシアと西側が対決することによる「リスクを甘く見るべきではない」と牽制(けんせい)している。

10日の協議後、アメリカのウェンディー・シャーマン国務次官は記者団に対し、双方の安全保障上の懸念をより良く理解するため、「率直な議論」が交わされたと話した。

一方で、大西洋条約機構(NATO)にウクライナを加盟させないなどの諸条件をロシアが西側に要求している件については、アメリカにとっては「あり得ない」話だとして退けたと述べた。

「NATOは常に、門戸開放の方針を同盟の中心に据えてきた。開いた扉を誰かがばたんと閉じるなど、認められない」

その上でアメリカの代表団はロシアに対し、ウクライナに対して何らかの侵略行為をとった場合には、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を実質的に併合した時よりも「はるかに大きなコストと結果が待っている」と告げたという。

アメリカ側は有事の際には、ロシアの主要金融機関への制裁のほか、輸出制限や「加盟国内でのNATO軍備強化」、ウクライナへの安全保障上の支援などを考えているという。

これに対し、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は「ウクライナに侵攻する意図や計画がないことを説明した」と話した。

また、「すべての軍事演習はロシア国内で行われており」、「この点において、事態が急転する理由はどこにもない」と伝えたと述べた。

リャブコフ氏は、協議は「てきぱきとプロらしく」進んだと述べた一方、アメリカにこの緊張状態の「リスクを過小評価しない」よう警告した。

ジュネーヴでは今週、ロシアとアメリカ、その同盟国による協議がいくつか予定されている。また、NATO本部のあるブリュッセルや、ロシアも加盟している欧州安全保障協力機構(OSCE)でも協議が開かれる。

しかし、10日の米ロの協議にはアメリカの欧州同盟国の姿はなく、シャーマン氏らアメリカ側の高官はすぐに、どんな決定においてもウクライナと欧州各国、そしてNATOを含めると保証した。

欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル・フォンテジェス外務・安全保障政策上級代表はこの日、ロシアがウクライナに侵攻する可能性はなおあると発言。「10万人の部隊が、境界線の向こう側にいる。ただコーヒーを飲みに来たわけではないだろう」と語った。

その上でボレル氏は、EUの「強力な協力と連携、そして参加」なくしては、どんな合意にも至ることはできないだろうと述べた。

ロシアはウクライナ侵攻は計画していないとし、部隊の移動は軍事演習が目的だと説明している。昨年12月にはNATOに対し、東欧での活動を大幅に縮小するとともに、ウクライナのNATO加盟を認めないよう要求した。

<解説>ジェイムズ・ランデール外交担当編集委員
10日の米ロ協議は、双方の外交官がウクライナをめぐり実施した初の対面協議だ。ロシアが要求する、東欧でのNATOの活動縮小についても話し合われた。

現時点では何の合意にも至っていないようだが、両国ともそれぞれの懸念や条件を提示しつつ、少なくとも今後も協議を続けていく可能性を示した。

それでもなお、両者の溝は深いままだ。アメリカはロシアにウクライナ国境から部隊を撤退させ、緊迫した状況を収めるよう求めたが、それについての保証は得られていない。

対するロシアは、ウクライナのNATO加盟を絶対に認めないと保証するよう要求している。アメリカはこれを一蹴した。アメリカ側は、NATOとロシア双方が軍事演習やミサイル配備の制限する案などを提示したが、ロシアがそれで満足するわけがない。

協議が「てきぱきと」進み、特に決裂しなかったことや、ロシアがウクライナ侵攻の意図はないと述べたことを前向きにとらえる声もある。一方で、こうした保証にもかかわらず、ロシアがこの危機について真剣に外交的解決を望んでいるのか分からないと米外交官が述べていたことを、悲観的にとらえる見方もある。

BBC 2022年1月11日
https://www.bbc.com/japanese/59947027