川口泰司さん=2021年9月25日午後4時50分、山口市吉敷下東2丁目、寺島笑花撮影
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 部落差別っていまもあるんですか――。「いつも聞かれる質問ですが、この乖離(かいり)こそが部落問題の現実です」。顔を出し、実名で講演活動などを続ける山口県人権啓発センターの川口泰司(やすし)事務局長(43)は話す。差別が激しい地域ほど、当事者は声を上げられない。立場を隠し、おびえながら生きる人がいる。

 愛媛県の被差別部落で生まれ育った。中学3年の時、結婚差別についての授業で友人が「部落の人とは結婚できない。子どもがかわいそう」と言った。親から「部落の人は怖い」と聞かされてきたという。実際に怖い目にあったのかと問うと、「ない」。同世代の友達に、そんな偏見を持たれていたことがショックだった。

 気がついたらその場で立ち上がっていた。「俺がその部落の人間やで」。教室中の視線が集まった。「俺、怖いか。何か違うんか。俺自身を見て判断してくれや」。言い終わると、全身の力が抜けて涙があふれた。すると、クラスメートらが次々に打ち明け始めた。父親がいないのを隠していたこと、容姿をからかわれて傷ついていること――。川口さんのカミングアウトを、それぞれが自身と重ねて受け止め、思いを返してくれた。クラスの雰囲気が変わった。

 地元の高校を卒業し、大阪の大学に進学すると、世間のまなざしに触れることが増えた。「ここは部落だから近づかない方がいい」と忠告され、部落問題について話すとタブー視された。「被差別部落出身の人の多くが日常的な差別に触れている。でも、外からは見えない」と川口さんは言う。

 同和問題の解決を掲げた同和対策事業特別措置法は1969年に制定。以来、住環境や進学率の格差是正などをめざし、住宅の整備や狭い道路の拡張工事が進んだ。対策事業は2002年、地域改善対策財政特別措置法が期限切れになるまで33年間続いた。各地で進められてきた同和教育は、広い意味での人権教育に形を変えつつある。「本人が知られたくない情報を守ることはすべての人の権利。部落問題だけでなく、性的少数者や国籍、民族への差別にも通じる」と川口さんは話す。

 いま、ネット上には被差別部落の地名リストや、地区内の住宅や墓を撮影した動画があふれる。川口さんが書記長を務める部落解放同盟山口県連合会でも、動画をみて自身が被差別部落出身だと知った若者らからの「将来が不安」、「家族に伝えていない。知られたら家庭が壊れてしまうのではないか」といった相談を受けた。

 川口さんは「先人たちが積み上げてきた100年の歴史がひっくり返ってしまった」と、嘆く。いまこそ当事者との出会いから現実を知ってもらうことが大切だと説く。誹謗(ひぼう)中傷を受けることもあるが、活動を続けるのは「声を上げられない仲間の思いも背負っているから」。周囲が部落問題を理解してこそ、当事者が下を向かずに生きられるようになると考えている。(寺島笑花)

3/3(木) 19:30配信
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