東洋経済2022/11/02 6:20櫛田泉
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北海道夕張市の衰退が止まらない。現在北海道知事を務める鈴木直道氏が夕張市長に就任した2011年からこの10年あまりで、市の人口は1万人台から6000人台に減少。約9億円あった税収も約8億円へと10%以上も減少した。一方で、2007年に財政破綻した市の借金の返済額は年間約35億円にのぼり、地方交付税など国からの交付金が今も支払いに充てられる。

鈴木氏は2008年に東京都庁から夕張市に出向し、その後30歳の若さで市長に就任。一時は「自治体再建のヒーロー」ともてはやされ、2019年「稼ぐ道政」を公約に掲げ北海道知事に初当選した。しかし、夕張市長時代にはJR石勝線夕張支線の攻めの廃線を実施したばかりか、市が所有していた観光4施設を格安で中国系資本の企業に売却したが、その後、4施設の運営会社は倒産。観光を基幹産業とする夕張市の経済は崩壊し「稼げない市政」を行っていたことは明らかだ。

■攻めの廃線とは何だったのか
2016年8月、夕張市長だった鈴木氏はJR北海道の島田修社長(当時)と会談し、石勝線夕張支線、新夕張―夕張間16.1kmの廃線を自ら提案。いわゆる「攻めの廃線」として注目を集めた。

当時、JR北海道の経営問題が表面化する中で、JR路線の沿線自治体首長が鉄道存続に向けての危機感を強める中での廃線提案だった。その理由は、輸送密度が2015年は119人に減少し年間1億6000万円に上る営業赤字を計上していること。老朽化した鉄道施設の改修に億単位の費用がかかるということだった。鉄道の廃止と引き換えにJR北海道は夕張市に対して持続可能な交通体系を再構築するための費用として7億5000万円を拠出することなどを条件とした。

財政破綻した夕張市を応援しようと2007年秋に「SL夕張応援号」が運行された際には、全国から大勢の観光客が押し寄せ、夕張の街は大きく賑わった。こうしたことから「炭鉱と鉄道で大きく発展した夕張の観光の目玉にできないか」という市民の声もあったが、鉄道の活用による地域経済活性化の側面には目が向けられることはなく2019年3月31日限りで夕張支線は廃止され、翌2020年約10億6000万円の費用が投じられ南清水沢地区に公共交通結節点となる「りすた」が開業した。

夕張支線の廃止・バス転換については、バスの便数が増便され鉄道時代よりも便利になったことがことさらに主張されたが、夕張市内の路線バスの利用者数は減少傾向が続き、市内のバス路線を一手に担っている「夕張鉄道(夕鉄バス)」のドライバーの高齢化問題が重くのしかかる。同社担当者によると「夕鉄バスのドライバーは過半数が50代以上。便数の維持についてはいずれ協議をしなければならない時期が来る」と将来的なバス路線の持続可能性については不透明な状況だ。

さらに、鉄道があることによって夕張を訪問していた観光客も消滅した。ソーシャルゲームアプリ「駅メモ!」を運営するモバイルファクトリーによると、夕張支線各駅への訪問者については、廃線となる2カ月前から現地で位置登録する人が増え始め、1カ月前に2~3倍に増加。廃線の翌月以降は従来の半分からそれ以下になるという推移を示したという。沼ノ沢駅の駅舎内で営業していた「レストランおーやま」も夕張支線の廃線後ほどなくして廃業した。

結果、この「攻めの廃線」がその後の北海道の鉄道網縮小の流れを作ってしまい、留萌本線をはじめ道内各地の鉄道路線の廃止が加速する。トラックドライバー不足も深刻化し鉄道貨物が見直されようとしている中、北海道の豊富な農水産物の輸送が今後、困難になるという問題も表面化しつつあるばかりか、東急の豪華クルーズ列車の運行にも影響が出るおそれがある。

■観光施設を中国系企業に売却後、倒産
鈴木氏は、攻めの廃線を提案した翌年の2017年4月、夕張市が所有する「ホテルマウントレースイ」「マウントレースイスキー場」「ホテルシューパロ」「合宿の宿ひまわり」の観光4施設を破格の2億4000万円で中国資本の「元大リアルエステート」に売却する。また、これらの施設の運営会社だった「夕張リゾート」と国の登録有形文化財であった「夕張鹿鳴館」も同社へ売却された。

市所有の施設が安値で売却された背景には、元大が従業員の継続雇用に加え、長年にわたって施設の運営と地域活性化を行うという同社呉社長と鈴木氏との口約束があったことが市議会議事録における鈴木氏の発言で明らかになっている。また、物件の売却時に通常は契約書に盛り込まれる転売禁止事項も設定されることはなかった。さらに、呉社長と鈴木氏による記者会見も開かれ「元大が夕張市に対し100億円規模の投資を行い、中国人をはじめとした大勢のインバウンド観光客を夕張に呼び込む構想」があると報道された。
※以下引用先で