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 魚離れや漁獲量の減少、漁業者の高齢化・後継者不足など、日本の漁業を取り巻く厳しい報道が絶えません。
しかし、日本の1人当たりの水産物消費量が減少傾向にある一方で、世界的には増加傾向にあり、人口増加も考慮すると今後ますますの水産物が必要とされています。
農林水産省も、日本の水産物輸出拡大を目指して輸出強化に向けた取り組みに積極的です。
そんな中、鹿児島県垂水市にある 垂水市漁業協同組合(以下、垂水市漁協)では、30年以上にわたり地道に根気強く養殖カンパチに取り組み、生産量日本一に。
現在は輸出にも注力しています。カンパチ養殖を成功させるうえのさまざまな苦労や試行錯誤を追いました。

日本の養殖カンパチ生産量の約2割が垂水市漁協で作られており、生産量は年間4,500トン、生産額は約50億円にも上る。
桜島を望む錦江湾(鹿児島湾)に漁場が広がっており、この雄大な景色は多くの人の心を惹きつけてやまない。
すぐそばに漁協直営のレストラン「味処 海の桜勘」があるため、産地に行って、食べて楽しめる場所もある。
朝に水揚げされた新鮮なカンパチを使ったさまざまな料理が提供されており、秘伝のレシピで作られたあら煮は骨まで食べられる柔らかさだ。
しかし、垂水市漁協がカンパチの日本一の生産地になるまでは紆余曲折があった。
垂水市漁協がカンパチ日本一になるまでの道のりと、その後のさらなる試行錯誤を取材した。

■台風襲来での壊滅的な被害
「とる漁業から育てる漁業への転換」が盛んに叫ばれるようになった1960年代、垂水市漁協ではいち早くブリ養殖に着手していた。
最盛期の1988年にはブリの生産量は5426トンを記録している。
そこからカンパチ養殖へと転換する大きなきっかけとなったのは、1989年に襲来した台風11号だった。
数百台の生簀がすべて海底に沈んでしまうほどの壊滅的な被害を受ける。
被災する少し前から、ブリ養殖への参入が増えて価格低迷にも悩まされていた中での大打撃だった。

その後、漁民が一丸となって「魚価が高く、他があまり手掛けていないカンパチ養殖を始めよう」と決断。
カンパチは稚魚が高価で寄生虫が付きやすいため、養殖にはハードルが高い魚だった。
漁場の錦江湾は江ノ島が南西の強い波から守ってくれるため、カンパチの稚魚生育には比較的適していた。

しかし、カンパチ生産量が軌道に乗り、伸びていくと同時に、他のエリアでも取り組むところが増え、再び供給増による価格低迷が始まってしまう。
「他と同じことをやっているだけではだめだ」「自分たちの魚に付加価値を付けて高く売らなくては」と、共通した危機感の元に今度はブランド化へと大きく舵を切った。

ブランド化を意識した当時、鹿児島県内のみならず日本国内でもまだ養殖カンパチのブランドはなかった。
先駆けてのブランド化は価格の向上や販路拡大のうえで大きな力になると考え、漁協で協議しながら取り組んでいった。

稚魚の導入から出荷までの養殖履歴を明確にするためのトレーサビリティを構築。
より肉質が良くおいしいカンパチを作るために、飼育試験と食味試験を重ねて、鹿児島県茶葉と焼酎を配合した特殊配合飼料が生まれた。
これをカタクチイワシやアジなどの冷凍餌に添加して与える。

特に茶葉の力は大きく、身のビタミンEの増加、コレステロール含量の減少が見られた。
さらに茶葉のカテキンが血合いの変色を防ぎ、きれいな赤色を保つ役割を果たしてくれる。鮮度も見た目も良くなるのだ。
魚の鮮度を化学的に判定する方法として魚類鮮度判定恒数(K値)が用いられており、 K値が低いほど生鮮度が良いことを示している。
茶葉を与えたカンパチは、他のカンパチと比べて時間が経ってもK値が低く、鮮度が保持されることが実験でもわかった。

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