消費税増税を軸に教育や医療・介護などの無償化を図る「ベーシックサービス」を提唱する井手英策慶大教授は28日までに時事通信のインタビューに応じた。コロナ禍を境に給付と負担のバランスが一層崩れたことに危機感を示し、「政策に財源論をきちんと位置付けることが民主主義を活性化させる」と強調した。主なやりとりは以下の通り。

 ―アベノミクスの評価は。
 あれだけの好環境を強引に整えても、アベノミクス下での実質GDP(国内総生産)成長率は年平均1%程度で、特段伸びていない。金融政策はそのしわ寄せでがんじがらめとなり、不用意に利上げすれば日銀が債務超過に陥りかねない。明らかに国民生活にとって不利益だ。1980年代までのような経済成長と所得・貯蓄の増大、それとセットでの自己責任による将来不安の解消というモデルは破綻している。
 ―ベーシックサービスとは。
 日本より税率が高い欧州の方が経済成長を実現している。税金は使い方次第で格差を是正し、中間層を含め老後や学費の心配のない社会をつくることができる。ベーシックサービスとは、年収200万円同士のカップルが安心して子どもを3人育てられる社会にしようということだ。
 ―野党は軒並み消費税減税を主張している。
 所得が増えないと将来不安に直面するという前提に立っており、全く新しい社会モデルになっていない。消費税減税は貧困層よりも富裕層にお金が返ることにもなる。大きな見当違いだろう。
 ―政府は防衛費増額の方針を決めた。
 防衛費を「GDP比2%」にするとの基準にはどのような合理的根拠があるのか、一体誰がどこで話し合ったのか。これは今の政治に通底しており、民主主義の本質に関わる話だ。コロナ禍での特別定額給付金は仕方ないとしても、いまだに「現金ばらまき」が続く。膨大な赤字国債を押しつけられる今の子どもや未来の子どもたちは意思決定に関わることさえできない。民主主義が息絶えつつあるということではないか。
 社会にとって何が必要か。その財源をどのように皆で負担するのかを話し合う中で、極端を排してあるべき中庸の姿を探るのが政治の役割のはずだ。今こそ「ばらまき」か民主主義かの戦いであり、与野党から財源論を直視する若手が出てこなければ日本の政治はこの先厳しいだろう。

時事通信 2022年12月29日07時26分
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