政府が日銀総裁候補として国会に提示した植田和男氏(71)は27日、参院議院運営委員会の所信聴取に臨んだ。衆参両院の同意が得られれば4月9日に就任するが、黒田東彦はるひこ総裁の下で導入した大規模金融緩和で国債や株式の保有残高が異例の規模に膨らみ、円安などの副作用が目立つ。残高を減らしていく「正常化」への道のりは遠く、新総裁は5年の任期中にどこまで対処できるのか―。(寺本康弘)
◆物価高の一因
 「誰がやっても難しい、厳しい状況。チャレンジングな仕事であり、過去の経験をいかして挑んでみたい」。植田氏は27日の所信聴取で、就任に向けた心境をこう説明した。まず向き合う課題は、国債を購入することで低く抑えてきた長期金利の操作だ。
 日銀は2016年9月、短期金利に加え、国債を購入することで長期金利も低く抑える異例の政策を開始。昨年ごろからは海外での金利上昇に伴い、日本の金利にも上昇圧力が強まったため、日銀は金利を抑えこもうと国債を大量に買い入れる事態に陥った。特に昨年12月以降に加速し、今年1月は1カ月で約23兆円と過去最高の購入額だ。金利を低く抑えると円安になりやすく、今の物価高の要因にもなっている。
 植田氏は長期金利の操作が「さまざまな副作用を生じさせている面は否定できない」と認める。

 日銀の国債保有は昨年に発行残高の5割を超え、564兆1000億円(簿価、昨年末時点)に達するが、当面は保有する国債を減らすどころか購入を抑えるのも困難だ。正常化の局面に入ると、金利がどこまで上昇するか見通せないためで、バランスを見ながら購入を続けざるを得ない。
 日銀が保有国債を売ろうとすれば、歩調を合わせて民間の金融機関も国債を売る動きが強まるため、金利が跳ね上がるきっかけになりかねない。植田氏も「国債を売却するオペレーション(市場操作)はないだろう」と述べた。東短リサーチの加藤出いずる氏は「新総裁の在任中に国債を減らす段階に行けるかどうか。長い道のりになる」と話す。
 持ち続けるリスクもある。日銀が長期金利の上限を引き上げれば、金利が上昇し国債価格は下落し、評価損が膨らむからだ。黒田総裁は今月3日の衆院予算委員会で、保有国債の評価損が約8兆8000億円生じていることを明かした。
◆67社の間接的主要株主
 日銀が国債と同時に大量に購入してきた上場投資信託(ETF)をどうするかも難題だ。ETFは幅広い株式に投資する金融商品。返済される年限の決まっている国債と違い、ETFは売らない限り日銀が持ち続けることになる。
 ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏の試算によると、23年1月末時点で、日銀が間接的に10%以上を保有し主要株主になっている企業はファーストリテイリング(19・9%)や京セラ(15・5%)など67社。井出氏は「日経平均株価が2万円を割るぐらいに下がれば、日銀は含み損を抱える」と試算する。
 日銀が持つETFは時価で50兆円ほど。過去に日銀は保有株式を年約3000億円ペースで売却すると表明し実施している。仮に同じペースで売却しても170年近くかかる計算だ。植田氏も所信聴取でETFについて「今後どうしていくかは大問題」と危機感を示す一方、「具体的に言及するのは時期尚早」と述べるにとどめた。

東京新聞 2023年2月28日 06時00分
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