読売新聞 2023/06/18 11:54
https://www.yomiuri.co.jp/culture/dentou/20230618-OYT1T50077/

動物の皮などから作る膠(にかわ)の多くで商品表示と原料が異なっていた問題で、文化財修復の接着剤として重宝される「ウサギ膠」について、日本に輸出する複数の欧州メーカーが取材に「原料がウサギだけの純正品はもう流通していない」と答えた。
日本で市販されているウサギ膠はほぼ欧州産で、国内でも「純正品」は出回っていない可能性が浮上した。

ウサギ膠は粘度が高く油分が多いため、接着力や柔軟性が高いとされ、文化財修復に欠かせない。
国立西洋美術館(東京)が市販の「ウサギ膠」14製品を任意で選び分析したところ、8製品は原料としてウシやブタのみを検出。残る6製品はウサギのほかにウシやブタなどが混入していた。

「ウサギ膠」を販売する国内業者は主に四つ。いずれも欧州から輸入するなどしている。うち3業者の商品は同美術館の調査でウサギ以外の原料が混じっていることが判明。
読売新聞が残る1業者の商品の分析を同調査に携わった民間会社「ニッピ」(同)に依頼した結果、原料は100%ウシだった。

ウサギを食べたり、毛を利用したりする文化がある欧州では、古くからウサギ膠が製造されてきた。
日本に「ウサギ膠」を輸出してきたイタリアのメーカーは、取材にメールで「商業的な名称であり、ウサギだけで作っているわけではない。少なくとも10年前から純正のウサギ膠は作られなくなった。欧州全体で同じことが言える」と回答。
ドイツのメーカーも「商品名は品質を示すもので、原料を示すものではない」と答えた。

荒井経・東京芸術大教授(文化財保存学)は「ウサギ膠はもう流通していないという前提に立って、文化財修復のあり方を考える時期なのではないか」と話している。