華やかで明るい未来を演出する万博だが、歴史的には列強が植民地支配に猛進した帝国主義に根をもつ。さまざまな地域の先住民族を生きたまま「展示」して「見せ物」にした「ヒューマンズー(人間動物園)」は人類の負の歴史だ。
120年前の大阪でも「学術人類館」事件と呼ばれる問題が起き、2025年大阪・関西万博も懸念すべき動きが出ている。差別思想を源流にする万博を継承する必要があるのか。脈々と続く問題を考えた。(木原育子)

◆120年前、先住民族を生身で「展示」
 1枚の白黒写真がある。それぞれが民族衣装を身にまとうが、表情は皆硬い。

「学術人類館に『展示』された人たちです」
 そう話すのは、沖縄の関連資料を貸し出す「関西沖縄文庫」主宰の金城カナグスク馨さん(70)=大阪市大正区。2001年に研究会をつくって議論を重ね、学術人類館事件から100年後の2003年には演劇「人類館」を再演した。

人類館は、1903年に大阪であった第5回内国勧業博覧会(内国博)の民間パビリオンとして設置された。内国博は、明治政府が国内産業の奨励のために1877年から開催。第5回は他国の参加もあり、「明治の万博」と称された。

◆「性質が荒々しいので笑ったりしないように」
「見せ物」となったのは琉球民族や北海道のアイヌ民族、台湾の生蕃(せいばん)、インド部族のバルガリーなど。
「7種の土人」として、生身の人間がそのまま「展示」された。解説者がムチで指し示しながら紹介したほか、「性質が荒々しいので笑ったりしないように」との立て札もあったという。

「本家」の万国博覧会は51年、世界で初めて英国で開かれた。列強は力を誇示する道具として万博を開いていく。
延長線上にあったのが、生身の人間を「展示」する「ヒューマンズー(人間動物園)」。89年のパリ万博で始まった。10年余がたち、大阪の内国博で人類館が設けられた。

【中略】

◆2025年大阪・関西万博でも似たような構図?
 人類館事件から120年。嫌な記憶を思い返させる事態も生じている。
 「わが国の先住民族であるアイヌの存在や文化を発信する、またとないチャンスだ」。今夏、北海道の鈴木直道知事は全国知事会議でそう口火を切った。

好機というのは2025年大阪・関西万博のこと。鈴木氏は、アイヌ民族が伝統的な舞踊などを披露する機会を設ける考えを表明した。白老町のアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」に触れ「万博来場者には、ぜひ北海道に足を運んでいただきたい」と言ってのけた。

生身の人間展示ではないが、先住民族を国家イベントに組み込む構図は「明治の万博」と変わらない。

続きは東京新聞 2023/12/17 12:00
https://www.tokyo-np.co.jp/article/296493