「物価高につきイカを入れています」「たこ焼ではなくイカ焼になっています よろしく」

 阪神間の下町で老夫婦が営むたこ焼きの店先に先月から、自筆で書かれた白い紙が貼り出されている。

 地元で庶民の味として親しまれている店のおばちゃんに、話を聞いた。材料の小麦粉、油、卵そしてタコ……。すべての仕入れ価格の上昇が続く。たこ焼きを値上げすることも一瞬、考えたが、長年、同じ値段で続けてきた意地がある。

 そこで思いついたのが、タコより安いイカ。こっそり〈メイン食材〉を変えるのは「後ろめたく、お客さんに申し訳ない」と、明示することにしたという。

 お客さんの反応は様々だ。「なんや。タコじゃなきゃいらん」と買わずに帰る男性がいた。一方で、「味はあまり変わらんな。とにかく店を続けて」「生地がうまいんだから、こだわらん」と応援する声もある。

 そばに置いてある新聞には、パーティー券、キックバックとの活字が躍る。「うちは、ちゃんと記載しているから、裏金じゃない」「タコとイカの差額が今日の晩ご飯のおかず一品になる。使いみちもはっきりしてる」。師走の路地に元気な声が、響いた。

 「イカサマで、すんまへん」(高部真一)

読売新聞 2023/12/27 06:49
https://www.yomiuri.co.jp/national/20231227-OYT1T50004/
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