沖縄県・宮古島沖で昨年4月、陸上自衛隊の多用途ヘリコプターが墜落して隊員10人が死亡した事故で、墜落直前の約1分半に2基あるエンジンの出力が相次いで低下し、飛行が継続できなくなったことが防衛省関係者への取材で判明した。同省は出力が低下した要因の特定作業を進めており、早ければ3月中にも事故報告書を公表する見通し。

 墜落したヘリ「UH60JA」は4月6日午後3時46分、宮古島の地形などを視察するため、島内の航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸。同54分、島西方にある下地島の空港管制と無線で交信した後、同56分に同基地のレーダーから機影が消えた。陸自は海中から機体の主要部分やフライトレコーダー(飛行記録装置)を引き揚げ、当時の状況などを調べてきた。

 関係者によると、フライトレコーダーを解析したところ、航空管制に進路を伝えた直後に機体右側のエンジンの出力が低下し、数十秒後にゼロになっていたことが判明。この頃、左側の出力は維持されていたが、間もなく下がっていったことが確認された。

 エンジン出力が変動する中、ローター(回転翼)の回転数は増減を繰り返しながら低下。飛行高度は左側エンジンの出力低下などを受けて、約300メートルから墜落直前には約100メートルへと下がっていった。同機はエンジン1基に異常が起きてももう片方が動いていれば飛行できるとされるが、2基とも出力が下がったことで高度が維持できなくなった模様だ。

 メーカー側は昨秋、調査の結果、エンジンに事故につながる損傷や故障が確認されなかったと報告。右側エンジンの出力低下については、エンジンの動力伝達に突発的なトラブルなどが起きた可能性が指摘されている。

 左側エンジンの出力低下では、隊員が出力調整用のレバーを誤って動かしたという見方も一時浮上したが、フライトレコーダーにはこうした操作を具体的に裏付ける音声記録がなく、誤操作の可能性は極めて低いとみられている。

 フライトレコーダーには、隊員たちがローター回転数の低下を察知して対処するやり取りや、右側エンジンについて「故障と考えられます」と伝える声、揚力を得ようと「(レバーを)引っ張れ」という声などが記録されていた。ただ、記録されているデータに不十分な点もあり、出力低下の要因の特定は難航しているという。【松浦吉剛】

毎日新聞 2024/3/3 05:00(最終更新 3/3 05:00)
https://mainichi.jp/articles/20240302/k00/00m/040/169000c