国立大学の名古屋大と岐阜大が18日、設置主体である国立大学法人の統合に向けた協議会の初会合を名大で開いた。事務部門や設備など重複する部分で運営の効率化を進め、教育・研究面の強化につなげる狙いだが、地方での存在感の維持や風土の異なる両者がどこまで折り合えるかなど課題もある。国立大再編のモデルケースとなるのか。他大学も協議の行方を注視している。

協議会の冒頭、名大の松尾清一学長は「少子化やグローバル競争で日本の高等教育は極めて厳しい環境にある。戦略や経営資源を効果的に共有し、機能強化を図ることが重要だ」と強調した。岐阜大の森脇久隆学長も「国立大の質を高める解決策として、『1法人複数大学』を実現できるモデルを示すのが使命だ」と意欲を示した。

構想では、新たな運営法人として東海国立大学機構(仮称)を設立し、両大学が傘下に入る。国が導入に向け法改正を検討中の「アンブレラ方式」を活用。総務や財務などの管理運営部門を統合し、職員や財源を研究分野などに重点的にまわす。大学名や学部、学科などはそのまま残す方針で、2019年度以降の法人統合を目指す。

協議会では両大学に担当理事を置くことを決めた。今後月1回ペースで開催してメリット・デメリットを整理し、課題を洗い出す。名大の松尾学長は報道陣に「今年度内の早い時期に最終的な合意に至りたい」と話した。

大学関係者も協議の行方を注目する。「改革は規模が大きい方が進みやすい」。中央教育審議会で部会座長を務める永田恭介筑波大学長は、統合による効果はスケールメリットだと強調する。総務、財務、経理など共通する部門は多い。「共通部分を効率化し、生まれた資金や人員を教育、研究の強化など新しいことに振り向けられる」と話す。

名大、岐阜大は教養教育の共通化や研究設備の共有などもめざす。文理の学部をそろえる総合大学同士、共通部分は多い。文科省が16年度に取り入れた国立大の3類型で、名大は「世界で卓越した教育研究」、岐阜大は「地域貢献」を標榜しており、両者で補い合えば、特色を一層伸ばせる。

大学は学部ごとに作る教授会の権限が大きく、大胆な改革が進みにくいと言われてきた。新法人が大きな権限を持てば、トップダウンの改革が進みやすくなる。

課題もある。国立大再編を巡っては、04年の法人化前、弘前、岩手、秋田大の3大学や、群馬、埼玉両大学などが一部学部を含む統合を協議したが、県境を越えた統合は全て不調に終わった。背景には地元の反発がある。

ある教育関係者は「両者の優劣は歴然。本気で効率化したら岐阜から岐阜大がなくなる」と危惧する。岐阜大の学内からは法人統合に前向きな意見が多かったというが、関係者は「共同で研究を進めるうちに岐阜大が埋没してしまうのではないか、という声もある」と打ち明ける。

各県1つ以上ある国立大は地方にとって大きな存在。文科省も「産業界を含めた地方の発展には、地方の質の高い教育機会の確保が必要」としている。

同じ国立大でも名大は旧帝大の流れをくみ、岐阜大は戦後生まれ。別の関係者は「伝統が全然違う。信頼関係を築けるのか」と指摘する。

国は収入の過半を占める運営費交付金を縮小しつつ、成果に応じた傾斜配分を強くする方針だ。ある地方国立大学長は「資金面が苦しい中、いかに教育・研究で成果を出すかでどこも苦心している。名大、岐阜大がメリット、デメリットをどう乗り越えるか。統合が成功すれば、全国に広がる可能性もある」と期待を込めた。



日本経済新聞 2018/4/18 16:19
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29530210Y8A410C1000000/