レムデシビルに続きアビガン承認へ コロナ治療に光?
日経 2020/5/13 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58943890R10C20A5000000/

米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビルが7日、重症の新型コロナウイルスに対して承認された。
富士フイルムのグループ企業の抗インフルエンザ薬アビガンも安倍晋三首相が5月中に承認する見通しを示している。
既に承認されている医薬品を転用して、新型コロナへの武器を模索する動きが加速している。

7日、厚生労働省はギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「ベクルリー」(一般名レムデシビル)を承認した。
4日に申請されたばかりだったが、わずか3日で特例承認した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象にした日本で初めての医薬品となった。対象は重症患者だ。

レムデシビルはギリアドがエボラ出血熱を対象に開発を進めていた注射薬。
コロナウイルスは細胞内に入ると、RNAポリメラーゼという酵素を作りだし、その働きによって、自らの遺伝子の複製を作って増殖する。
レムデシビルはRNAポリメラーゼの働きを妨げ、ウイルスが増殖するのを抑える。

米食品医薬品局(FDA)は1日、レムデシビルをCOVID-19の重症入院患者に対する治療薬として緊急使用許可(EUA)を与えていた。
緊急使用許可はFDAによる正式な承認とは異なり、一時的に使用を認めるものだ。

■(レムデシビルは)海外販売を根拠に特例承認 (略)

■(レムデシビルの)流通には厚労省が介在

(略)いずれにせよ、承認されたとはいえ、レムデシビルの使用はかなり制限されたものにはなりそうだ。

■アビガンも5月中の承認にめど?

(略)海外でアビガンは販売されていないので、レムデシビルのように特例承認は使えない。

ところが、安倍晋三首相は4日の会見で、「月内の承認を目指す」と明言した。
大学などがCOVID-19に対する臨床研究などを行っているため、それらのデータも利用して承認するスキームにめどを付けたものと思われる。
もっとも厚労省は「どのようなデータが出てくるかだが、有効性などについてはしっかり確認する」としている。

■観察研究に参加すれば投与可能

アビガンはこれまで国内で、大学などによる臨床研究(特定臨床研究や観察研究など)が行われてきた。
安倍首相は4日の会見で、「国内で3000例近い投与が行われてきた」と明かしたが、その大半は観察研究だ。

観察研究は、本来の適応とは異なる投与を行った治療に関するデータを集めて分析する研究のことで、原則、医療機関の倫理審査委員会などの手続きを経て実施する必要がある。

ただ、厚労省は4日、観察研究によるアビガンの使用がより迅速に行えるよう、一定の手続きを行った医療機関では倫理審査委員会の承認など、観察研究への登録は事後でもよい旨の事務連絡を行った。
なお、観察研究に参加してアビガンの投与を希望する場合、代表研究機関の藤田医科大研究事務局か国立国際医療研究センター研究事務局に、医療機関から連絡することを求めている。
アビガンも現状では、希望すれば誰でも投与してもらえるものではないことに留意すべきだ。

またアビガンの観察研究に関しては、4月18日に開催された日本感染症学会の特別シンポジウムで藤田医科大学の土井洋平教授が、
「軽・中等症の9割、重症者の6割で改善に向かった」などと説明したが、これらは比較試験ではなく、改善に向かった理由が薬の作用によるものかどうかは分からない。
有効性については臨床試験の結果が出るのを待つ必要があるだろう。

一方で、アビガンの安全性については、動物実験で催奇形性が見られたことから、妊婦や妊娠の可能性がある人には使わないようにするなどの注意が必要だ。

レムデシビルとアビガン以外にも既存の医薬品の幾つかが、COVID-19に効果が期待されるとの考えから、臨床研究や企業治験などが行われている。
既存薬の転用の場合、原則、安全性は確認済みなので、承認取得までのハードルは低い。
ワクチンや抗体、新薬などを設計するところから手掛けると、その設計や製造方法の検討などに時間がかかることに加え、動物実験のデータなども一から用意しなければならず、年単位の時間がかかる。

日本での承認のハードルが比較的低いと思われるCOVID-19向けに開発中の医薬品は中外製薬の「アクテムラ」など、ほかにも多くある。
これらの開発が進み、有効性が示されれば、COVID-19への武器がそろっていきそうだ。