https://dot.asahi.com/wa/2017060200048.html

いよいよ6月から、新卒採用の企業面接が解禁される。時代とともに若者が会社に求めることは変化している。
どうやら今の若者は、休みを重視する「余暇ファースト」主義らしい。世代間の価値観のギャップが原因で、
職場でハレーションが起きるのは世の常。彼らの行動の背景や本音を知ることから始めよう。
        
頼むから、出ないでくれ──。

都内の大学に通う、就職活動真っただ中の男子大学生、横山正さん(仮名・21歳)。ここ数日、夜11時以降は、
一人暮らしのアパートの部屋から“志望企業”に電話をかけるのが日課になっている。汗ばむ手でスマホを握りしめ、
祈るように番号を押す。だがワンコール鳴ったところで、願いは砕け散る。

「はい、○○(会社名)でございます」

相手の声を聞き、急いで電話を切った。

「ここも、ウソつきか……」

手帳に書いた志望リストの中から、電話に出た企業名にチェックを入れる。優先順位が落ちたことを示す印だ。
日曜日に電話して電話に出た企業にも、同様のチェックをつけた。明日は友達と飲みに行った後、深夜に志望企業の
電気が消えているかどうか直接見に行くつもり。こうして、入社後に残業を強いられないか、週末は本当に休めるのか、
企業の実態を確かめているのだ。

そこまでする理由は、企業が採用募集時に公表する平均残業時間や有休消化率を「全く信用できないから」
(横山さん)だという。

「現に残業ゼロをうたっているところでも、深夜や日曜日でもワンコールで電話に出る人がいて、背後で働く人が
いる様子が伝わってきたこともある。先輩からも“会社が公表する数字なんて、お飾りみたいなものだ、信じるな”って
言われてきました。いわば選考に進む前の“自己防衛”みたいなものです」

横山さんのような就活生は珍しくなく、20代の若者は給料より休みを重視する“余暇ファースト”傾向があるという。
今年5月、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した、「2017年度新入社員意識調査アンケート結果」によると、
新入社員が会社に望むこととして、今年度初めて「残業がない・休日が増える」が「給料が増える」を上回った。
同社調査部研究員の土志田るり子さんは、「将来の不安が、休み重視の姿勢を後押ししている」と分析する。

「多くの企業で給料が上がりづらい状況が続く中、若者が入社後の先行きを不安視する傾向が強い。
10年後の日本の状況を悲観的に見る若者も増えています」(土志田さん)

給与については現状維持がいいところで、むしろ悪くなる可能性さえあると、多くの若者は考えている。

「だからせめて、休みくらいはしっかりほしいという考えが広がっているのでしょう」(同)

働き方改革や過労死事件の影響もあり、企業側にも世の中の風潮をくみ取り、月平均の残業時間や
有休消化率といった数字を積極開示する姿勢が暗黙のうちに求められているようだ。4月に都内で開催された
就活フェアを訪れてみると、「残業ゼロ! アフター5はプライベートをしっかり楽しめます!」
「有休消化率98パーセント! オンオフを区別したい貴方にぴったり!」など、各企業ブースは必死に
「休めますアピール」をしていた。