世界遺産登録から2日で10周年を迎えた島根県大田市の石見銀山遺跡。

 同市の竹腰創一市長は6月の記者会見で「地元の地域愛が基本にあって、(登録や保全・活用)が前進した」と話し、住民による町の活性化を評価したが、登録時の爆発的なにぎわいは落ち着き、観光客数は減少傾向にある。訪問者を増やし、新たな魅力を伝える鍵は何か。課題と展望を探った。

 県観光動態調査によると、世界遺産登録の翌年にあたる2008年、銀山の坑道跡である龍源寺間歩まぶへは年間36万3814人が訪れたが、16年は当時の約28%にあたる10万1607人に落ち込んでいる。出雲大社の本殿遷座祭が営まれた13年には一時的に回復したものの、減少傾向にある。

 竹腰市長は銀山観光について「駐車場に車を止め、徒歩や自転車を使う旅行スタイルが定着しつつある」と話す。だが、駐車場のある石見銀山公園から、龍源寺間歩までの片道2・3キロは、誰もが楽に移動できる距離ではない。

 観光車両は入れないため、訪問者の移動は徒歩か有料のレンタサイクル、ベロタクシーのみ。夏場や雨天時の散策は、体力的に厳しい上、長距離歩行が困難な高齢者や、障害者にとって、気軽に見学できる場所とはいえないのが現状だ。

 市は6月23日から障害者と介助者を対象にした電気自動車(EV)で、同公園―同間歩間を運行する実証実験を始めた。11月26日までの週末を中心に行い、適切な移動補助の検証を行う。

 観光客からは、石見銀山遺跡は「地味で分かりにくい」という声も寄せられてる。石見銀山資料館の仲野義文館長は、1日に同市で開かれた石見銀山学講座で、「展示物や展示方法などについて何が原因か検証する必要がある」と述べた。

 一方、石見銀山ガイドの会などによると、この10年間で、自身で歴史などを調べ、現地で説明を聞きながらより深く学ぼうとする人たちの姿は目立つという。

 竹腰市長は「(観光客が)増えるのは大事だが、滞在時間をいかに増やすかも大事な視点」と話す。当初より観光客の滞在時間が長くなっているといい、「周辺のホテルや旅館に泊まってもらうことで、周囲の活性化につながる。滞在型の観光を目指すべきだ」と述べた。

 他県からの観光客は、松江城や出雲大社のある東部に集中し、石見銀山遺跡を含む西部への誘客増は県の課題でもある。県などは14日から、特別展「石見銀山展 銀が世界を変えた」を古代出雲歴史博物館(出雲市)と、石見銀山資料館の双方で同時開催する。1枚の入場券で両展を見学できるようにして現地への誘客を促す。

 溝口知事は2日の記念式典で、「市と県が一体となって遺跡の価値を国内外に広く伝え、継承する」と述べた。その言葉通り、県、市と住民が次の10年も遺跡を守り、生かすための取り組みが求められている。(佐藤祐理)

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