「表現の自由」を守るために活動をしているアメリカのNPO「コミック弁護基金」
(Comic Book Legal Defense Fund)の事務局長・チャールズ・ブラウンスタイン氏が来日し、
10月29日に東京都文京区で、最新のアメリカにおけるマンガ規制について講演を行なった(主催:コンテンツ文化研究会とNPO法人うぐいすリボン)。
ブラウンスタイン氏によると、かつてアメリカで吹き荒れたマンガやコミックに対する弾圧は下火になっているものの、
図書館ではいまだ子どもたちが自由にマンガを読めず、検閲行為が行われているという。
また、トランプ政権下において、両極の表現が先鋭化し、表現活動が萎縮している状況について語った。 
(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

●規制やモラル・パニックとの戦い

アメリカのマンガやコミックの市場規模は、2013年時点で約8億7000万ドル(約1105億円)で日本の30%程度(日本貿易振興機構、
「米国コンテンツ市場調査」より)。ジャンルとしては、長年にわたってスーパーヒーローものが人気だが、規制と隣り合わせの状況にある。

講演でブラウンスタイン氏はまず、マンガの現状について、「私たちは漫画の歴史において大変、豊かな時代にいます。
著作物はクリックひとつで、いかなる時代でもどのようなメディアでも、簡単に多種多様なコンテンツにアクセスできる時代を迎えています。
これは祝福すべきこと」と述べた。

そして、「今、コミックはグローバルな広がりを見せています。コミックは読者と作者に間における感情の情景を結びつけるのに有能なメディアです。
開放的であり、心を揺さぶり、刺激的であったり、啓発したり、逆撫でたり、カタルシスを促すことも可能です。
これこそ、素晴らしい側面なのですが、コミックをよく思わない人からすれば、この傾向は脅威でもあります」として、
マンガと規制の歴史を振り返った。

「今まで、コミックの歴史の中で、様々な危機がありました。
社会の秩序を乱す存在としてコミックは、モラル・パニック(道徳的ではないと判断し、必要以上に反応するもの)などの対象になることがありました。
特に報道メディアからは、社会の秩序を乱すということで攻撃されてきました。
マンガ、コミックという物語を伝える手段を非難することは、個人の責任の放棄を促すことにつながりかねないですし、
社会問題の根幹にある課題と向き合うことの回避を促します。

そもそも、アメリカでゲームやインターネットも被害を受けてきましたが、コミックが最も酷い被害を受けています。1940年代後半から1950年代前半にかけて、児童の不良化が進んでいるとして、コミックの責任が問われました。1954年に連邦議会でも言及され、法的規制への流れができてしまったため、出版社による自主規制を余儀なくされました。

この時に生まれたのが、コミックス倫理規定、『コミックス・コード』と呼ばれるもので、複数の出版社が廃業し、数千人のクリエーターが仕事を失いました。マンガは若年齢のためだけのメディアであり、忌み嫌われる存在というイメージが持たれるようになりました。青年向けの作品を発表しても、当局の追及を受ける結果になりました」

1960年代から1970年代にかけては、学生運動や政治的な状況を反映したマンガが誕生する。
セックスやドラッグ、階級闘争、人種差別などの問題を取り上げたアンダーグラウンドの作品が発表されるが、
警察による書店の摘発が相次いだという。

「当時、アメリカは猥褻物に対するモラル・パニックが吹き荒れていた時で、
猥褻かどうかは自治体住民に委ねられるという最高裁判断が下された時です。
最もアメリカでリベラルとされるニューヨークでも書店の人が逮捕されるまでに行き着きました。
これにより、アングラ系コミックのビジネスは痛手を受けて、表現の自由は押しつぶされました」

弁護士ドットコムニュース
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