https://www.tokyo-np.co.jp/article/233389
2023年2月27日 06時00分

 非正規労働者が増えるきっかけになったといわれる報告書を1995年にまとめた日経連(現経団連)元常務理事の成瀬健生さん(89)が、本紙のインタビューに対し、雇われて働く人の4割近くを非正規が占める現状に「今ほど増えるとは思わなかった」と証言した。約30年の時を経て日本の賃金停滞へとつながっており、非正規の急増に歯止めをかけなかった経営者に対し「人間を育てることを忘れてしまった」と警鐘を鳴らした。(畑間香織、渥美龍太)

 報告書名は「新時代の日本的経営」。経営で三つの雇用の形を組み合わせることを提言した。このうち契約社員や派遣ら非正規を「雇用柔軟型」と名付け、企業が人件費を抑えるために活用する方向性を示した。

 当時、日本は先進国が協調してドル高を是正する「プラザ合意」(85年)を機に円高が急伸、その後のバブル崩壊で不況に陥った。成瀬さんは報告書の作成について「円高で賃金が上がり過ぎたから下げるしかなかった。このままでは企業がつぶれるという緊急避難の意図があり、内容が経営者に利用されるのは仕方がない」と説明した。

 公表後、非正規は増え続けた。95年は1001万人と雇用者の20.9%だったが、2022年には2101万人と36.9%に。同期間に正規は191万人減り、非正規は1100万人増と倍増した。報告書作成時の非正規は高齢者や主婦、学生らで「増えても雇用者の20~25%」と考えた。今のように非正規が家計の柱となる働き方を想定しておらず、「今ほど増えるとは思わなかった」と振り返る。

 報告書はもともと、正規の賃金を2~3割下げることを意図したが「はっきりとは書けなかった」と明かす。結果として「正規の賃金はほぼ横ばいだが、企業は非正規を増やして(全体の)平均賃金としては下がった」と分析。21年実績でみると、非正規の賃金は正規より3割以上低い。
 景気が好転すれば、経営者が非正規を正規として雇用する「復元」が起きるとも思っていた。しかし「経営者は(08年の)リーマン・ショック後に生き残ることしか考えなくなった。(13年からの)アベノミクスの金融緩和などで利益が増えても復元しようとはしなかった」と嘆く。

※続きはソース元でご覧ください