日本中がウイルス感染にかつてない危機感を抱くなか、見逃されているリスクがある。それが「歯医者」だ。
実は、十分な感染予防策が取られているかどうかは、歯科医院によって大きく異なる。
どこで見分ければいいのか。『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)著者のジャーナリスト・岩澤倫彦氏がレポートする。

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「世界的な流行が、未知の領域に突入した」と、WHO(世界保健機関)が表現するほど、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
安倍晋三首相が小中高の一斉休校を要請、厚生労働省の専門家会議はライブハウスやカラオケボックスなどへの立ち入り自粛を呼びかけているが、
すべて場当たり的な対策に終始している。中でも情報がすっぽり抜け落ちているのが、「歯科治療」の感染リスクだ。

新型コロナウイルスの感染ルートについて、厚労省は「飛沫感染(ひまつかんせん)」と「接触感染」を挙げている。
この2つのリスクが混在しているのが「歯科治療」。

当然のことだが、歯科医院を訪れて診察や治療を受ける際、患者がマスクをつけたままというわけにはいかない。
そのため、新型ウイルスなどに感染した患者が来院した場合に、どのようなリスクがあり、歯科医院側がどう備えるべきなのか、
そして自分の通っている歯科医院が適切な対策を取っているのか、知っておく必要がある。

虫歯治療で歯を削る時に使用される、高速回転のエアータービン・ハンドピースなどは、摩擦熱の冷却と洗浄のため、常に水が流れ出ている。
仮に患者が新型コロナに感染している場合、歯を削ると周囲約1メートルの範囲でウイルスを含んだ飛沫が飛び散ってしまう。
神奈川歯科大学の浜田信城教授(微生物感染学分野)が、歯科クリニックの診療室内部を調査したところ、「患者が座るチェア」「口腔内を照らすライト」、
そして治療中に口腔内から水を吸い上げる「バキュームの内側」に、大量の細菌が付着していることが確認された。つまり、ウイルスも同様に付着している可能性が高い。

現時点では、新型コロナウイルスがこうした無機物に付着してどの程度の時間、感染力が持続するのか、まだ確定した情報は出ていない。
それでも、感染予防の意識がある歯科医院では、ライトなどはラップでカバーして患者ごとに交換、チェアなどもアルコールや次亜塩素酸ナトリウム溶液で拭いている。

また、歯を削る時に使用するハンドピースは、回転を停止した時に血液や唾液などが逆流する「サックバック現象」が起きることがある。
患者が新型コロナウイルスに感染していた場合、そのまま次の患者にハンドピースを使用すれば、感染する可能性は高い。

ハンドピース内部には「逆流防止弁」がついているが、厚労省の研究班が5社のハンドピースの実験したところ、すべてのハンドピースで「サックバック現象」が確認された。
そのため、厚労省の指針では「患者ごとにハンドピースの交換が望ましい」としているが、半数の歯科医はこの指針を無視していることが分かった。

厚労省の研究班として、東北大学の江草宏教授が2017年に行った調査では、「使用済みのハンドピースを患者毎に交換し、滅菌を行う」と答えた歯科医は、52%だったのである。
実は2014年にも、国立感染研究所の研究員による調査が行われ、患者ごとにハンドピースを交換していた歯科医は約3割だった。つまり、7割が「使い回し」をしていたのである。

歯科治療における感染リスクは、血液、唾液などが付着する治療器具の全てにある。ハンドピース以外にも、根管治療に使うリーマーやファイル、
エアタービンに装着するチップ(またはバー)、口中の水を吸い出すバキューム、歯石除去用のキュレット、スケーラーなど、種類は多い。

こうした治療器具は、高圧蒸気を使った「オートクレーブ」で滅菌処理をするように指針で定められているのだが、これも歯科医院で徹底されていない。
取材した歯科医院の中には、器具をアルコールに浸しただけのところもあったし、ある歯科医によると、オートクレーブを用意していないクリニックもあるという。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200307-00000021-pseven-soci&;p=2
3/7(土) 16:00配信