救急患者のたらい回しを防ぐため、救急隊の現場滞在時間や病院への照会回数に上限を設ける独自ルールを、32都道府県が作っていることが、総務省消防庁への取材で分かった。いずれも上限を超えた場合の搬送先を事前に指定するなどの対応も定めており、消防関係者からは「負担が減った」と搬送時間の短縮に期待する声が上がっている。9日は救急の日。

消防庁によると、救急搬送を巡っては、各地で病院による患者受け入れ拒否が相次いだことを受けて二〇〇九年に改正消防法が施行され、都道府県に「搬送・受け入れの実施基準」の策定と公表が義務付けられた。

東京や徳島など三十二都道府県は現場滞在時間か照会回数のいずれか、または両方に上限を設け、実施基準に明記した。宮城や熊本など残る十五府県は「病院の確保が難しい」「搬送が困難なケースはほぼない」といった理由で時間も回数も定めていない。

東京では(1)五病院に受け入れを断られる(2)要請開始から二十分以上経過しても搬送先が決まらない−のいずれかの場合、指定病院が受け入れるか地域内で搬送先を調整する運用を〇九年八月に始めた。東京消防庁の担当者は「病院の意識が変わり、救急隊の負担も減った」と評価。(1)か(2)に当たる「搬送困難事案」も大幅に少なくなったという。

千葉は今年三月、実施基準に「三十分以上搬送先が決まらない場合」などの条件を定め、八月から千葉市の三病院が必ず救急患者を受け入れるようにした。県の担当者は「必要に応じて他地域にも広めたい」と話す。搬送困難なケースが多くない徳島も一一年、万が一に備え「照会四回以上」などの場合に特定病院が優先的に受け入れるとした。

一方、こうした独自ルールがない宮城では一五年、重症以上の患者受け入れで病院に十回以上照会したケースが四十六件に上った。県の担当者は「改善しないといけないが、必ず受け入れる病院の確保は難しい」と語る。

熊本は「搬送件数が年々増えており、ルールが必要か検討していきたい」。福井や島根は「搬送困難な案件はほぼなく、現状では導入を検討していない」とした。

◆原因分析し対策を

<救急システムに詳しい帝京大医学部救急医学講座の坂本哲也教授の話> 高齢化が進み、救急搬送件数は全国的に増えている。救急隊の現場滞在時間に上限を設けるなどのルール作りは、補助金事業など病院側に患者受け入れを促す他の対策とともに、搬送時間の悪化を防いでいると推測される。搬送が困難な事案が起きている自治体は危機意識を持ち、何が原因かを関係機関が協力して分析し、ルールの設定も含めて対策を進めるべきだ。

<救急車による搬送時間> 総務省消防庁の集計では、消防への通報から、救急車で患者が病院に運ばれるまでの搬送時間は長くなる傾向にある。2015年の全国平均は過去最長の14年と同じ39・4分で、05年に比べ8・3分、1995年に比べ15・2分長くなった。都道府県別では東京の51・4分が最長で千葉の44・6分が続き、最短は福岡の30・2分だった。

全547万8370件のうち、2時間以上かかったのは2万3020件あり、重症以上の患者受け入れで病院に4回以上照会したケースは1万1754件に上った。

救急車による搬送の平均時間と件数
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/images/PK2017090802100194_size0.jpg
東京の独自ルール
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/images/PK2017090802100195_size0.jpg

配信2017年9月8日 夕刊
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017090802000253.html