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2018年01月25日
白石 和幸 : 貿易コンサルタント

サウジアラビアで建設中の、メッカとメディナの二聖都を結ぶスペイン製の「ハラマイン高速鉄道」が、2017年12月31日に全行程450kmを2時間52分で完走した。完走できたのは今回が初めてで、時速300kmを超えた区間もあったという。工事着工から5年かけてようやく全行程走行にこぎ着けたわけだが、ここまでの道のりはありえないほど厳しかった。しかも、足元では新たな問題も浮上している。

通称「砂漠のスペイン高速鉄道(AVE)」。聞こえはいいが、スペインにとっては悪夢のようなプロジェクトに違いない。この問題だらけのプロジェクトを、サウジ2社、スペイン12社からなるコンソーシアムがサウジ鉄道公社から請け負ったのは2011年のこと。当初は、サルコジ元大統領(当時)がフランスの高速列車(TGV)を積極的に売り込んでおり、同国が受注する可能性が高いとみられていた。これに対して、スペインは当時国王だったファン・カルロス1世に応援を依頼し、リヤドまで赴いてアブドラ国王(当時)を説得することに努めてもらった。

ファン・カルロス国王は愛人を同伴していたことが後になって判明したが、サウジ王家とスペイン王家は歴史的なつながりから仲が良い。その効果もあってか、結果スペインが受注。しかし、スペインが受注した本当の理由は、TGVよりもAVEの見積もりが20%安価であったということが決定打だったことが今になってわかっている。

最初からつまずいた

工事は2012年に開始。総工費は67億3600万ユーロ(7400億円)で、完成予定は2017年1月とされた。

ところが、ここからが大変だった。まず、線路を敷くための土台の完成が大幅に遅れた。これはスペイン・コンソーシアムが受注する以前に、中国の企業とサウジの企業によるジョイントベンチャーが請け負っていた工事で、これが完了しないことにはスペイン・コンソーシアムでは線路を敷くことができないという事態に陥っていた。

ようやくこの工事を終えて次に困ったのが、砂漠の砂が線路にたまる問題。特に、メディナから117km地点から227km地点までの区間が砂の堆積が激しく、砂嵐が起きると線路が見えないくらいに砂がたまってしまうほど。そこで解決策として考案されたのが、線路に枕木と砂利を使うのではなく、あたかも舗装道路の上に線路を敷くような形に変えたのである。

しかも、舗装面をいくらか傾斜させて、砂のたまり具合を少なくさせるように。そして、一定の区間ごとにセンサーを設置し、列車が通過したときに発信する音で砂のたまり具合をチェックするというプランも検討されたほか、線路の側面に防禦壁を建設する案も出た。しかし、試験的に試してみたが、どれも効果がないという結論に。線路に沿って砂漠で生存できる木を植林するという案も出たが、この場合は効果を発揮するには時間がかかるということで採用にはならなかった。
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