かつてない衝撃が首都・東京の飲食店や利用客らを襲う。
25日に発令される新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言で、東京都が酒類を提供する飲食店に休業を要請する見通しだ。

飲食店での飲酒は禁止と言わんばかりの強い措置。度重なる営業時間短縮の要請に従った関係者に憤りや落胆が交錯する。

サラリーマンでにぎわう新橋(港区)の飲食店街。焼き鳥店「山しな」を営む山科昌彦さん(46)は
「話が急すぎてついていけない」と困惑する。これまでの時短要請は全て従い、客席にビニールのカーテンを設置するなどさまざまな対策をとってきた。

都の方針にならえば酒類を出さずに午後8時まで営業することもできる。
だが「酒がない焼き鳥の店なんて……」と休業するつもりだ。

「これまでの時短の協力金では持ちこたえられない。きちんと補償して」と訴える。

常連客の男性会社員(57)は「病床不足やワクチン接種の遅れは国や都の責任。しわ寄せが居酒屋に来るのはおかしい」と憤る。

若者の街・渋谷のバー「amulet−d」店長の山嵜将臣さん(42)は「飲食店ばかりを悪者にしてきて、状況が何か改善したのか」と疑問を呈する。
これまで同様、今回も要請には応じるつもりだが、割り切れない思いも残る。

手ごろな価格の居酒屋が軒を連ねることで知られる赤羽(北区)。
居酒屋「やきとん大魔王」店主の篠原裕明さん(52)は「(行政の)場当たり的な対応のつけを払わせられるのか」とぼやく。

地元の男性会社役員(50)は「休業要請に従わない店に客が集まり、真面目な店が割を食う」と怒りをあらわにする。

最寄りの赤羽駅から列車に乗ると3分で川口駅(埼玉県川口市)に着く。
「まん延防止等重点措置」の対象地域。埼玉、千葉、神奈川の3県は都内からの人の流れを抑えたい考えだが、
都県境の街にある飲食店で酒類の提供が続けば、酔客が引き寄せられる可能性もある。

鉄板焼き店「いくどん」で働く斎藤誠剛さん(56)は
「川の向こうとこっちで対応が分かれるのは理不尽だ。常連客が流れてしまう」とため息をつく。

休業要請の影響は取引業者にも及ぶ。「来るべき時が来てしまった……」。
創業100年を超える酒の卸問屋「佐々木」(新宿区)の佐々木実社長(66)は力なくつぶやく。

取引先は都内の飲食店など約3000カ所。25日以降の売り上げが激減するのは明らかだ。
賞味期限を迎える酒類は廃棄せざるを得なくなる。「国は中間業者に対しても十分な支援をしてほしい」と訴える。

新橋駅近くにあるチェーンの酒店も、売り上げの大半は周辺の飲食店への納入だという。

「社内では最近、(『家飲み』の)需要の高い郊外店が重視されている」と打ち明ける。
https://mainichi.jp/articles/20210423/k00/00m/040/248000c