ここ20年間下がり続けている日本の「実質賃金」。
一方、アメリカやドイツなど多くの国の実質賃金は右肩上がりを続けており、日本は世界から本格的に取り残されつつあると言って良いだろう。

 それではなぜ日本の実質賃金は長年下降しているのか。政治経済に関する著書を多数執筆している京都大学大学院教授の藤井聡氏に話を聞いてみた。

■デフレによる負の連鎖
 内閣府は実質賃金上昇のために、「労働生産性を高め、企業の生み出す付加価値を高め、
それをできる限り雇用者に賃上げという形で分配していくことが重要である」(令和元年度 年次経済財政報告)という。
実際、日本の労働生産性はOECD平均加盟国37か国中26位と非常に低い。

 実質賃金が上がらず日本が世界に後れている現状を鑑みると、内閣府の指摘は間違っていないように思える。
が、藤井氏はこれについて「表面的には正しいです」と半ば同意するも、
「実質賃金が上がらない最大の要因は“デフレーション”(以下、デフレ)に陥っているということです」と言う。

「デフレ下では、モノが売れません。そうなれば、どれだけ労働者が頑張っても儲からず、結局賃金も少ないままになる。
働いても働いても賃金が少ないわけですから、必然的に労働生産性は下がるのです。
しかも、皆が貧乏になれば当然モノが買えなくなって、ますますモノが売れなくなる。
そうなればますます企業は儲からなくなり賃金も下がって、どんどん労働生産性は下がる、という負の連鎖が起きます」

■働き方改革はバカバカしい
「そもそも労働生産性とは、従業員1人あたり、または1時間あたりに生み出す付加価値を示す指標で、
生産した付加価値の総量、あるいは、賃金を労働量で割ることによって算出されます。
デフレによって国民が貧困化する(需要不足になる)と、どれだけ良い物を売っても買う人がいないので賃金が下がり、
労働生産性が上がらないのは当然です。つまり、デフレを脱却しないと労働生産性は上がらず、ひいては、実質賃金も上がらないのです」

 労働生産性の低い理由として、ハンコに代表されるような非効率的で旧態依然とした働き方が連想されるが、
「労働生産性が低いのは企業の問題ではほとんどなく、デフレの影響により、モノが売れなくなったことが主因です。
働き方改革をやったところで労働生産性は上がりません。表面的な対処療法でしかなく、馬鹿馬鹿しいことこの上ない」と藤井氏は一蹴した。

■労働分配率もデフレの影響によって下落
 次に、“労働分配率”(企業が稼いだお金を従業員にどれだけ分配しているかの割合)についてはどうだろうか。
財務省は2019年度の金融業と保険業を除く全産業の内部留保(利益余剰金)が過去最高の475兆161億円に上ると発表した。

 一方で、労働分配率は2009年(74.7%)から2019年(68.6%)にかけて大きく下落しており、
「企業は利益を従業員に還元していない」といった批判も少なくない。労働分配率と実質賃金の関係性を聞くと、
藤井氏は「労働生産性と同様、労働分配率もデフレの影響によって下落しています」と口にする。

「デフレ下では、リーマンショックやコロナショックのような世界経済を揺るがす大事件が起きることを警戒し、
企業は人材や設備などに投資することに後ろ向きになり、内部留保に回さざるを得なくなります。

 また、先述した通り、デフレが続くと消費行動が抑制されるため、現在に至るまで企業間の価格競争が激化してきました。
その結果、企業は出費を極限まで切り詰めるべく、人件費削減を真っ先に行ってきたため、実質賃金が下がり続けているのです。それが労働分配率の下落につながっています」

■“株主重視”の政策で実質賃金が犠牲に
「ただし労働分配率が下がり続けている原因はデフレだけでなく“株主配当金の増加”も挙げられます。
会社法の度重なる改正に伴い、経営者の影響力が下がる一方で、株主の影響力が相対的に高まった結果、
株主に過剰な配当金を支払う圧力が企業にかかるようになりました。
恐ろしいことに、株主の配当金を捻出するために、実質賃金を減らしている企業も少なくありません」

(以下略、全文はソースにて
https://news.yahoo.co.jp/articles/a9566dd24e502e9fcffed8e36940c1e7dba0ced5